第44回
CLASKA のスタッフが自身の愛用品の魅力について語るちょっとしたコラム。
第45回は、刺繍を学ぶため約2年間パリに留学したスタッフが、10年前から愛用している刺繍針の話です。
10年前、リュネビル刺繍を学びに約2年間パリに留学しました。リュネビル刺繍とは、オートクチュールによく用いられる、フランス・リュネビル地方で生まれた伝統的な刺繍技法。その技術を後世へ受け継ぐために作られたのが、私が留学したÉcole Lesageという学校です。
きっかけは当時通っていた服飾系の短大の先生から言われた一言でした。洋裁やテキスタイルより帽子やアクセサリーなどの小物を作ることが好きだったので、「この学校で刺繍を極めるのはどうか」とフランス留学を勧めてくれたのです。就職氷河期で将来が見えずにいたので「それもいいか」と、短大を卒業して半年後、単身でパリへ。そこで入学と同時に購入したのがこのクロシェ・ド・リュネビルと呼ばれる刺繍針です。
素朴で木製ならではの温かみがあり、使い続けると手に馴染んでいくのも好きなところです。ただ、フランスに行くまでは普通の縫い針で刺繍をしていたので慣れるまでは本当に大変で、学校の勉強時間では足りず、家でもずっと練習していました。
留学中に学んだことは、技術に言葉はいらないということ。英語もフランス語もわからなかったのですが、学校で先生の技術を見て学び、家に帰って復習。翌日「あなたできているわね!」と、先生に褒められたことがとても嬉しかったのを今でも覚えています。
それまでは言葉が通じずコミュニケーションが取れないことが不安だったのですが、言葉を持ち得なくとも対話できる方法もあると痛感しました。それがきっかけで不安な気持ちがなくなり、さらにたくさんの人と知り合いたいと思うようになりました。10年経った今でも、その時に出逢った友人とは関係が続いています。
自分にとってこの刺繍針は愛用品であると同時に、世界を広げてくれた特別なものです。刺繍はおばあちゃんになっても続けられるものなので、ゆくゆくは作家としても作品を作りながら、手が動く限りものづくりを続けていきたいです。
(CLASKA Gallery & Shop “DO” 湘南T-SITE店 スタッフ 地神せり)
公開日 2022年4月8日
聞き手・写真・文 黒沢友凱
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