第1回
コラージュ・題字:堀井和子
堀井和子さんが日々の暮らしや街歩きの中で見つけた、いいもの、美しいものを報告してくださる連載です。今回は、堀井さんが魅かれた画家との出会いと旅のお話。
DERRIÈRE LE MIROIR は、南仏のマーグ美術館の冊子で、大判で印刷がとても美しく迫力があります。美術館のミュージアムショップ奥に、それまでに発行されたこの冊子がたくさん積み重なっていたので、夢中で一冊一冊手に取って見たのが、30年くらい前。カルダーやケリー、マティスの冊子の他に、このアルプの冊子も購入しました。
ジャン・アルプの作品に特別な興味を持っていたわけではないのに、のびやかな形と色に、なぜかぐっと魅かれたのを覚えています。
右は6、7年前、神田の古書店で見つけた「ひとさらい」シュペルヴィエル著(澁澤龍彦訳)。白地に濃いグレーの線画、水色の文字のタイトル、本を開くと明るく浮き立つような黄色の見返し、扉の濃いブルーの挿画がモダンで、文章部分の茶色の刷り色がシックです。
小説を読むことは考えていなくて、神田へ行くたびに、その書店に立ち寄り、“まだ売れていなくてよかった”、“この本の装丁、いいなぁ” と、半年以上、手に取っては棚に戻していました。ある日、決心して買って帰ったのがこの本です。
5月末に豊田市美術館を訪ね、“抽象の力” の展示を見ました。木に彩色してコラージュしたジャン・アルプの作品が2点並んでいて「おや、この曲線何だか懐かしい」と思いました。ゾフィー・トイベル・アルプ(ジャンの妻)の “青いフォルム” がインターネットで紹介されていて、気になっていましたが、こちらは小さい作品で、カードやポスターに印刷された様子も見たかったのですが、販売されていませんでした。
東京に帰って、ジャン・アルプの作品を検索していたら、あの「ひとさらい」の線画を見つけました。あわてて「ひとさらい」の本をチェックして、“挿画 ハンス・アルプ” のクレジットを確かめたのです(ハンスはドイツ名)。ふと魅かれる、なぜか気になるって面白いです。アルプをあまりよく知らないまま、冊子と本を選んでいました。
豊田市美術館は建築家 谷口吉生の設計(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館やニューヨーク近代美術館)で、ランドスケープデザインはピーター・ウォーカー。
中庭から、水面と青空に挟まれた美術館がドラマティックに目に映ります。庭の奥の湿地には、畝を作って紫のカキツバタが植えてあり、さらに進むと大きな樹木に囲まれるように茶室が建っていました。
美術館を出ると、桜の木の間に作品が自然に配置されていて、ちょっと外国へ旅したような気がします。
帰りの新幹線に乗る前に豊橋駅で買った絹与の羊羹は、小豆の風味が上品で、きりっとした形、美しい包装も心に残っています。
堀井和子
堀井和子さん プロフィール
1954年、東京生まれ。料理スタイリスト・粉料理研究家としてレシピ本や、自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍、国内外の旅のエッセイなどを多数出版。2010年に「1丁目ほりい事務所」を立ち上げ、CLASKA Gallery & Shop “DO” と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行なっている。
2017年7月7日 公開
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