第1回
コラージュ・題字:堀井和子
堀井和子さんが日々の暮らしや街歩きの中で見つけた、いいもの、美しいものを報告してくださる連載です。第3回目の今回は、“座れない” 小さな椅子のお話から始まります。
昨年の夏、買物帰りに立ち寄ったお店で、子供用バンブーチェアを見つけました。フランスの50'sのデザインのものだそうで、大人は座れないと聞きましたが、迷わず買うことにしたのは、熟成期間みたいな時間を持ったからかも知れません。
2007年に南仏旅行をした時、ヴァロリスの陶器のギャラリーで、円いカーヴのフォルムと、透き間のデザインが魅力的な椅子を見ました。年月を経た木の色合いが温かな表情に感じられ、ギャラリーの人にこの椅子について尋ねたら、フランスの50'sの家具の本を出してきて説明してくれました。
私は透き間を生かした編み組みのカゴやザルが好きでした。スタイリストをしていた頃に買ったバゲット用の柳のカゴやパンをのせるトレーは、フランスのオーベルニュ地方などで作られていた "panier d'osier(柳のカゴ)" です。
スタイリストの仕事を離れてアメリカのN.J.州に住んでいた1985年頃、bloomingdale's のN.J.店で、大きな柳の楕円形トレー(長い径が100cm、短い径が51cm)を購入しました。実用のことはあまり考えていなくて、自分たちが暮らしている空間に置いて、見ていたいと感じたのです。版画を選んで飾るような感覚でしょうか。このトレー、透き間のデザインのせいか圧迫感がなく、どこに置いても、そのあたりが飄々といい雰囲気になりました。
ヴァロリスで記憶に焼き付いたバンブーチェアには、なかなか出合えないなぁと思いながら9年過ぎて、昨年、ふと見つけたのです。大人用もありましたがデザインが違っていて、子供用の座れない方がイメージにぴったりでした。
今くらいの年齢になると、60肩になったり老眼が進んだり、めげることも多いのですが、積み重ねてきた時間のおかげで、自分がその物を好きな度合が、素直にきっぱりわかる気がします。見た瞬間に、あぁやっと出合えたと、迷いなく選べるのが、すごく嬉しいです。
CLASKA "DO" 本店で見つけた、透き間のデザインの美しいカゴ 2点
堀井和子
堀井和子さん プロフィール
1954年、東京生まれ。料理スタイリスト・粉料理研究家としてレシピ本や、自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍、国内外の旅のエッセイなどを多数出版。2010年に「1丁目ほりい事務所」を立ち上げ、CLASKA Gallery & Shop “DO” と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行なっている。
2016年7月1日 公開