堀井和子さんの「いいもの、みつけました!」 連載タイトル

コラージュ・題字:堀井和子

堀井和子さんの「いいもの、みつけました!」

堀井和子さんの新しい連載コーナーがスタートです。堀井さんが日々の暮らしや街歩きの中で見つけた、いいもの、美しいものを、ときどき報告してくださるそう。とっても楽しみです。それでは記念すべき第1回目を、どうぞ。

第1回:“鮒佐”の佃煮のパッケージ、ベージュも白も魅力的です

鮒佐の佃煮のパッケージ

浅草橋で用事を済ませ、お昼にお蕎麦を食べようと、江戸通りを“あさだ”へ向って歩いていました。佃煮の“鮒佐”の看板に気づき、お店のガラスケース内にずらっと並べられたパッケージに目がとまりました。

佃煮を買う予定がなかったので、一度は通り過ぎましたが、文字の包装紙のパッケージを見たくてたまらず、引き返しました。

円い木箱の曲物、四角い木箱の折詰はそれぞれ1号から9号までのサイズ展開です。ベージュの紙に屋号と住所などを手描きにした文字を印刷した包装紙で包み、シックなグレーの紙紐で十字に結わえたパッケージの他に、白い紙に同じ文字の包装紙で包み、赤に近い濃いピンク色の紙紐で、手に提げて持てるように結んだパッケージも少し並んでいました。

鮒佐の佃煮のパッケージ

一番小さい“取りまぜ5種”のパック入りと曲2号を購入し、家へ帰ってじっくり見たら、文字の色は、墨色に限りなく近い茄子紺でした。ベージュの紙に印刷した方は墨色に見えますが、白い紙の方は茄子紺の色味がよくわかります。何とも江戸前な印象で、この包装紙にこの濃いピンクの紙紐の組み合わせにハッとしました。ちょっと手土産に、と渡された時、洒落ていて軽快で、嬉しくなるパッケージですね。

四角い紙で円い木箱を包む包みかた、紙紐の結びかた、ひとつひとつのデザインがきりっとカッコいい。中身の佃煮は、パッケージの印象を裏切らず、きっぱりと潔い味でした。

日本のパッケージデザインの本は外国語版を含め何冊か持っていますが、手描きの文字を使ったものに魅かれます。DO の本棚にあった大熊さんセレクトの一冊も、数年前に買って以来、大事にしています。


堀井和子

日本のパッケージデザインの本
CLASKA Gallery & Shop “DO” ディレクター 大熊健郎より、新連載のスタートに寄せて。

堀井さんスコープ

堀井さんにお会いするたびに、そのときどきに面白かった展覧会や本の話などを聞かせてもらうのをいつも楽しみにしています。それが毎回魅力的な情報やお話ばかりだというのはもちろん、堀井さんならではの「気づき」やユニークな視点に満ちた「発見」が多くて驚かされてばかりなのです。逆につくづく自分がモノを見ているようで見ていないことに気づかされ、反省することしきりなのですが・・・。

仕事柄、これまで色々なモノを見たり選んだりしてきましたが、ときどき頭の中に既にあるカタログを通してモノを見ていることにハッと気がついてドキッとすることがあります。自由に、あるがままにモノを見るって本当に難しいですよね。

ところが堀井さんのお話を聞いていると、堀井さんがありのままにモノを見ているというのが凄く伝わってくるのです。

以前堀井さんがドーのお店にあった長崎凧を見つけて、「エルズワース・ケリー(アメリカの現代美術作家で堀井さんも好きな画家のひとり)の抽象画みたい」と言うのでびっくりしてしまいました。白地に青い十文字模様のシンプルな凧を少し傾けると、確かにケリーの絵そのものなのです。日本の伝統工芸品である凧と現代アートを結びつけてしまう感性の柔らかさ。

長崎凧と堀井和子さんのご自宅写真

もちろん堀井さんはただありのままにモノを見ているだけではありません。ありのままに見た風景の中から堀井さんは自分の「好き」という、昔から一貫して変わらない視点によって切り取ってみせてくれるのです。子供のような無邪気で自由な好奇心とぶれることのない堀井さんのセンス。そこに堀井さんが見つけたもの、提案するものの魅力と、いつまでも古くならない強さがあるのだと思います。

そんな堀井さんが日々の暮らしや街歩きの中で見つけた、いいもの、美しいものをリポートしてくださるという連載がスタートします。一読者として、とにかくいまから楽しみでしかたがありません。


CLASKA Gallery & Shop “DO” ディレクター
大熊健郎

※文中の左の写真が長崎凧。右の写真は、書籍『いま使いたい、ニッポンのいいものCLASKA Gallery & Shop "DO" が選ぶ美しい日用品』より、堀井和子さんのご自宅の一角。

堀井和子さん プロフィール

1954年、東京生まれ。料理スタイリスト・粉料理研究家としてレシピ本や、自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍、国内外の旅のエッセイなどを多数出版。ライフスタイル文化を牽引してきた、その美意識に憧れるファンは数知れず。2010年に「1丁目ほりい事務所」を立ち上げ、CLASKA Gallery & Shop “DO” と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行なっている。

大熊健郎 プロフィール

CLASKA Gallery & Shop “DO” ディレクター。1969年、東京生まれ。インテリアショップIDÉE でバイヤー・商品企画などを担当後、雑誌『翼の王国』の編集部を経て2008年にCLASKA のリニューアルとCLASKA Gallery & Shop “DO” の立ち上げを行ない、現在に至る。雑誌『Discover Japan』(枻出版社)、『PAPERSKY』(ニーハイメディア・ジャパン)、『婦人画報』(ハースト婦人画報社)で連載中。

2016年6月3日 公開

堀井和子さんと作ったものバナー