堀井和子さんの「いいもの、好きなもの」

第2回:国立競技場のゲート/掘削機の部品/ペチューニアの絵本

写真・文:堀井和子


 国立競技場のゲート、アルファベットごとにレイアウト、デザインが違っていて素敵です。

 イベントや競技のない平日の午前中は、ひっそり静かで、ランニングや散歩の人とすれ違うくらい。
 普段歩く道路より高いレベルで、競技場を囲むように通路、スペースが広がっているので、風通しも見晴らしもいいことに気がつきました。

 今年の猛暑の夏、歩いていて、たいそう気持ちよかったので、以後、散歩のコースに。

 木のベンチも、時間がたって自然な色、質感に変化していて、植栽とも馴染んだ様子です。

 アルファベットの文字自体にも好き嫌いはありますが、ゲートの背景も含めたデザインでは、D、D1が一番魅力的に感じています。F、F2もさり気なくて爽やかでいいかな。

 表参道の建築現場で、カッコいいブルーのデザインを見つけました。

 掘削機でしょうか。澄んだ濃いブルーにペイントした丸い穴あきの部分が、モノトーンの建物や機械のメインの色の間で、ズルイくらいに目立っていました。

 誰がこの色にペイントしたんだろうと、思いをめぐらせてしまいます。

 美術館で、好きな絵の前に立った時のように心が躍ったのが、面白かったです。

 "PETUNIA IN DER STADT" は、1960年、ドイツで出版されたロジャー・デュボワザンの絵本です。

 日本では2002年に冨山房から“ペチューニアのだいりょこう”というタイトルで出版されていますが、表紙のベースの色や扉のデザインが違います。

 ペチューニアはガチョウで、農場の上を飛ぶ銀色の飛行機に憧れて、エクササイズをして飛ぶ力をつけ、大空へ。

 私も空を旋回する小さい銀色のセスナ機が好きで、ついつい空を見上げ続けてしまうので、わかるなぁと。

 この絵本を見た時、ガチョウは空を飛べるのだろうかと、疑問を持ちました。
 飛ぶ能力はあるけれど、農園や家で飼われているガチョウは飛ぶ能力が退化して、どう飛ぶかわからなくなっているそうです。

 ペチューニアが、銀色の飛行機のように飛んでみたくなったところからお話が始まることに、すごく魅きつけられた気がします。

 大きな船の前に、豆粒のように小さく描かれたペチューニアとタクシーと運転手、墨1色の線描の高層ビルの窓 ── 絵本のページをめくるごとに、ワクワクが増殖していくような一冊です。


Profile
堀井和子 Kazuko Horii
東京生まれ。料理スタイリスト・粉料理研究家として、レシピ本や自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍や旅のエッセイなどを多数出版。2010年から「1丁目ほりい事務所」名義でものづくりに取り組み、CLASKA Gallery & Shop "DO" と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行う。

CLASKA ONLINE SHOP でのこれまでの連載
> 堀井和子さんの「いいもの」のファイル (*CLASKA発のWEBマガジン「OIL MAGAZINE」リンクします)
> 堀井和子さんの「いいもの、みつけました!」


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