堀井和子さんの「いいもの、好きなもの」

第13回:エッシェンバッハのルーペ/グリーティングカード

写真・文:堀井和子


“手作りのカレンダー” ( 連載8回 ) で、フィルムカメラで撮った写真が自分にとって特別だったことを書きました。

2000年に入ってデジタルカメラを使い始め、画像はパソコンでチェックするようになって、それまでに撮ったネガは、離れた所のクローゼットに収ったまま、15年以上見ていませんでした。

先日、単行本で使用したネガを探す必要があって、フランス旅行のネガのファイルを自宅に運んできました。

長い間、見ていなかったフランスの田園、民家、マルシェ、樹木や花の写真は、光も色もやはり特別で、見ていると、その時の空気に包まれるように感じます。

ここにファイルされているのは、フランス南西部 ペリゴールのマルシェの写真。
オレンジがかった朱色のバケツに白と藤紫のリラの枝、枝を編んだカゴにじゃがいも、白っぽい量りにハーブ ── 昔のマルシェで使われていた道具との組み合わせが美しい。

泊まったホテルの建物、庭の造り、田園の写真も、この頃の長閑でゆったりした様子に、目を奪われます。

これらのネガをきちんと確かめたくなって、エッシェンバッハの8倍ルーペを買いました。

量りの手前のハーブの種類も、リラの小さい花弁や、木の柵にからまっている植物の綿毛もちゃんとわかって、レンズ越しの世界が再開したような…。

以前持っていた大きめのルーペは、どこかへ収いこんで見つけだせなかったので買い直したのですが、1990年〜2000年頃のフランス旅行を、ネガで辿ってみることにします。

マンションで1年に1度、9時から12時まで、電力を停めて全体をチェックする日があり、水道、パソコン、エレベーターなどが使えなくなります。

仕方なく外出することにしましたが、なかなか時間が過ぎてくれなくて困っていたところ、ふと立ち寄ったインテリアショップでグリーティングカードを選んでいたら、急に時間がたつスピードが速くなったようです。

コウノトリの WELCOME BABY のカードは eggpress 製。
コーナーを丸くしたカードの形、色使いとシンプルな絵柄が魅力的。

濃紺の山と三日月、星のバースデーカードは peopleiveloved.com 製。

サボテンに雨が降り注ぐ活版印刷のサボテンのカードは Wolf & Wren Press 製。
活版の凹凸が深くこちらに刻まれるような印象が …。

今、使うためというより、カードでこんな表現ができるのかと、強く魅きつけられた3枚を選びました。

1枚1枚じっと見つめては、ワクワクが響くカードを探す時間、とても面白かった。


Profile
堀井和子 Kazuko Horii
東京生まれ。料理スタイリスト・粉料理研究家として、レシピ本や自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍や旅のエッセイなどを多数出版。2010年から「1丁目ほりい事務所」名義でものづくりに取り組み、CLASKA Gallery & Shop "DO" と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行う。

CLASKA ONLINE SHOP でのこれまでの連載
> 堀井和子さんの「いいもの」のファイル (*CLASKA発のWEBマガジン「OIL MAGAZINE」リンクします)
> 堀井和子さんの「いいもの、みつけました!」


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