堀井和子さんの「いいもの、好きなもの」
写真・文:堀井和子
古書店で見つけて800円で買い求めた、新橋演舞場の「三月新派大合同」のパンフレット。
佐野繁次郎さんの絵を表紙、裏表紙に跨るようにレイアウトしてあります。
「註文帳」は泉鏡花作、「青春怪談」は獅子文六作と、クレジットされている作者や脚色、演出家の贅沢なラインナップにハッとしましたし、各ページ下の福砂屋や入船堂本店、西川のふとんなどの帯広告も、墨一色なのに粋なデザインに感じました。
濃いグレーの鉛筆のアウトラインの中を、深く濃い紺色で塗ったテーブルの上に、水色のガラス瓶や黄色地に赤いライン入りのクロス、色を塗っていないアウトラインだけのケトル。
こんなふうに俯瞰っぽく潔い四角で捉えたテーブルのデザインは、佐野繁次郎さん装丁の本で、何点か見たことがあります。
横光利一の「花花」や中山義秀の「美しき囮」の表紙、松本清張の「小説帝銀事件」の扉など、展覧会場で見入っていた記憶が。
でも、この「三月新派大合同」の濃紺のテーブル、一番カッコいいかもしれない。
昭和30年当時、このパンフレットを片手に、観客が演目を鑑賞している様子を想像するだけで、新鮮な刺激にドキドキしてきます。
星耕硝子、伊藤嘉輝さんの6月の個展で、ガラス鉢を買いました。
口径16cm 高さ10cm、幾分細めで涼やかなフォルム、おっとりしたモールのものを選びました。
このガラス鉢に、冷たい素麺を盛り付けてみたくなったのです。
薄めの色合いの麺つゆを張っても、素麺にトマトと玉ネギのみじん切りに酢、麺つゆ、オリーブ油のソースをのせてもよさそう。(さらに青柚子を絞ってかけるのが、おすすめです)
この器にこの料理と、きっぱり思い描けたら、ずっと使い続ける器になることが多いでしょうか。
今年の夏、大活躍してくれます、きっと。
パリオリンピックが近づいて、ふと思い出しました。
2021年7月23日、東京オリンピックの開会式を前に、東京都心を飛行中のブルーインパルス。 我家のベランダから撮影しました。
予行演習の時、知ったのは、先に切り裂くような特別な音が耳に届くこと。
それから遠くに、豆粒のようなサイズの飛行機が目に入ります。
6機揃って近づいてくるスピード感、頭上でそれぞれのサークルを描く様子に、こんなにも心が躍るのかと、自分でも驚きましたっけ。
青空と雲の間を抜けていく飛行機の編隊と音の記憶が、やけに鮮明に残っているのが面白くて嬉しいです。
Profile
堀井和子 Kazuko Horii
東京生まれ。料理スタイリスト・粉料理研究家として、レシピ本や自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍や旅のエッセイなどを多数出版。2010年から「1丁目ほりい事務所」名義でものづくりに取り組み、CLASKA Gallery & Shop "DO" と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行う。
CLASKA ONLINE SHOP でのこれまでの連載
> 堀井和子さんの「いいもの」のファイル (*CLASKA発のWEBマガジン「OIL MAGAZINE」リンクします)
> 堀井和子さんの「いいもの、みつけました!」