美術家・外山夏緒さんによるブランド「gungulparman(グングルパーマン)」。現実と空想の世界を行き来するような感覚で作られたオリジナルのアクセサリー作品と、CLASKA Gallery & Shop "DO" とのコラボレーションで誕生したハンカチ・スカーフをご紹介します。
ある晴れた日、とても穏やかで落ち着いた雰囲気が漂う東京郊外の街にあるご自宅兼アトリエにお邪魔してお話を伺いました。
写真を市橋織江さん、デザインとイラストを外山さんが手がけた「気仙沼漁師カレンダー2022」が見える。
― これまで gungulparman さんと CLASKA Gallery & Shop “DO” のお付き合いとしては、アクセサリー作品のお取り扱いから始まり、ショップを装飾するインスタレーションもしていただいてきましたが、今回、初のコラボレーションでのオリジナル商品として、ハンカチとスカーフが誕生しました。その経緯についてお聞かせください。
以前 CLASKA Gallery & Shop “DO” ディレクターの大熊さんに、アクセサリーをはじめとする作品のパンフレットをお送りして見ていただいたことがあるのですが、そこに載っていた絵を思い出してくださり、今年の2月頃に「ハンカチの絵をお願いできますか?」とお話をいただきました。そこで「CLASKA のほうで、何か希望されるテイストなどありますか?」と伺ったところ「自由に描いてほしい」とのことで、本当に好きなように描かせていただきました。今年作らせてもらえたお仕事の中でも、すごく楽しかった制作のひとつです! そのハンカチを気に入っていただけたようで、「スカーフも作りましょう!」ということになりました。
― ハンカチの絵柄については、どのように着想されましたか?
ハンカチは、1日の始まりのほうの時間に手に取ることが多いアイテムですよね。なので、その日のその先の時間に向けてワクワクできるようなもの・楽しくユーモアのあるものを、ということで “今日は何して遊ぶ?(What shoud we do today?)”をテーマに。モチーフは、描かれてる展開を素直に楽しめるといいなと思い、まずはオーソドックスなモチーフとしてクマ・花・メリーゴーランドの3種類にしました。
ハンカチの原画(左)。まず下絵(右)を描き、下絵の上に本番用の紙を載せて後ろからライトボックスで光を当て、下絵を透けさせて着彩されたもの。
メリーゴーランドの中心部分に、"SIESTA?" "RACE?" "SHIRITORI?" "DANCE?"などの言葉が入っている。
メリーゴーランドの絵柄では、メリーゴーランドがお休みの時間に馬たちが「何して遊ぶ?」と話し合っています。そしてハンカチを折って使っていただく際、たまたま見た面に何の遊びが書いてあるか、その時によって違うように散りばめました。昔、スヌーピーのハンカチを持っていた頃、縁にマンガが描いてあって、使う時にたまたま見るコマを楽しんでいたのを思い出したんです。
― “What shoud we do today?” という言葉からは、「今日は何して遊ぶ?」という以上に、遊ぶことへの使命感のようなものを感じます(笑)。
遊びへの執着は、ありますね(笑)。
個展「火星人が仕掛けた罠」(2016年)DMビジュアル
― 今回、gungulparman さんと作ったハンカチとスカーフの発売に合わせて、gungulparman さんのオリジナルのアクセサリー作品のお取り扱いも CLASKA ONLINE SHOP でスタートさせていただくことにしました。中でも代表的な "TRAP" シリーズのコンセプトが、面白くて大好きです。
ありがとうございます。"TRAP" シリーズが生まれた2016年の個展「火星人が仕掛けた罠」は、火星人が地球人を乗っ取り地球をアトラクションとして楽しもうとしている、という設定でした。火星人が地球人を誘い出すためにキラキラした素材を集め、「嘘の金銀財宝」を作って並べて待ち伏せするんです。その「嘘の金銀財宝」を表現するため、光沢のあるサテン生地で装飾品を制作したのが "TRAP" シリーズになりました。
―ご自身の作品を「本物の宝」ではなく「嘘の宝」とする発想がすごい、と驚かされました。
そこが、興味のあるポイントで。物事の境目、グレーゾーン、境界線に興味があるんです。金属の真似で作られた指輪だけど、本当に着けられる。それなら、物事のいったいどこまでが本物で、どこからがフェイクなのか―その問いが、わたしのすべての表現活動の根底にあるようです。個展でのインスタレーションでも、絵なのか現実なのかの境目が曖昧な世界を表現したかった気がします。
― その創造性は、どのようにして養われたのでしょう?子どもの頃、何か影響を受けたことはありますか?
子どもの頃は、東京の郊外のなんてことない住宅街で、美術とはまったく関係ない両親の元で育ったので、影響を受けたことはありません。ただ高校時代、隣町にムサビ(武蔵野美術大学)があって、自転車で通学しながら、ムサビのおしゃれでカッコいいお姉さんたちに憧れていました。そんなこともあって、高校3年生の時に美術大学へ進学することを一度検討したのですが、自分がやりたい美術のイメージはあるもののどの学科を選べばいいのかがわからなかったし、それを相談できる人も周りにいなかったため、一般の大学に入りました。が、結局途中で行かなくなってしまってムサビに入り直したんです。
― おお!諦めず、結局ムサビに行かれたのですね。
その時に選んだのが基礎デザイン学科でした。そこは何かを専門とするというよりも「形を創る時にどういう思考をするか」ということを教えてくれる学科で、アウトプットのし方は自由、だけどそれに至るまでの考え方を学ぶことができました。だから何でもできるし面白かったですよ。自分の考えを人に伝えるために最適なのは立体なのか、平面なのか。そこから考えるんです。そのおかげで今も、自分は絵だけ描く・アクセサリーだけ作るなどと制限せず、文脈を意識して色んなものを作るのが好きなんだと思います。
― 布に絵が描かれたブローチのシリーズも素敵ですよね。モチーフはどんな風に選ばれていますか?
ドローイングのブローチについては、日々色々スケッチをして、ブローチに合うモチーフを探っています。そのほか、写真を撮って絵を起こすことも、昔旅行に行った際の写真を見直すこともあります。
― どこまでも精密に描ける画力をお持ちでありつつ、ご自身の作品のために画風をチューニングされている気がします。
デフォルメしていますが、実は画風には執着がなく、とにかくどうやったら楽しくなるかを考えています。以前には、誰が描いたかが一目でわかるような個性を出すことに憧れがあった時代もありますが、今の自分は溢れる水を容れている器のような気持ちで、いくらでも楽しみたいです。
― 「今後こんな作品を作ってみたい」など、新たな展開についてご希望のイメージはありますか?
今後は、自分1人で作るのではなく、作品にしても商品にしても、人と一緒に作ることをやってみたいです。コロナ禍でしばらくできなくなっていた展示会もまたやりたいですね。作品を買ってくださるお客さんとの距離が近い、健康的な関係性を大切に保ちながら、これからも作品づくりを続けていきたいと思います。
― 今後の作品やご活動も楽しみです。今日はお話をお聞かせいただきありがとうございました!
ありがとうございました。
次の作品群や展示会への展開に向けて現在行っているのは、六芒星の形の紙のパーツを金型で打ち抜いて作る作業。
手で切り出したような若干いびつな形になるよう、使っている金型は実際に手で切り出した紙を元に特注したもの。
gungulparman / 外山夏緒
2015年より、絵や詩、物語で展開したインスタレーションなどの美術活動をスタート。他、イラストレーション、空間装飾、グラフィックデザインなどで活動中。2016年 gungulparman スタート。
http://gungulparman.com
2021年12月17日 公開
インタビュー写真・文:速水真理(CLASKA)