鈴木優香展

─ Interview

鈴木優香 写真展 「旅の結晶」

 

2024年7月13日より、 「GALLERY CLASKA」 で山岳収集家・鈴木優香さんの写真展を開催します。
パキスタンのカラコルム山脈を16日間かけて旅しながら撮影した写真の数々を、 プリント写真や映像など様々なかたちで体感いただける場となります。
展示に際し、 「山岳収集家」 としての活動について、 そして今回の展示について鈴木さんに話を伺いました。

写真:柳川暁子(CLASKA)/文・編集:落合真林子(CLASKA)



 

Profile
鈴木優香 Yuka Suzuki


山岳収集家。 東京藝術大学大学院修了後、 アウトドアメーカーのデザイナーを経て独立。 現在はライフワークとして世界中の山を巡りながら、 道中で出会う美しい瞬間を拾い集めるように写真に収めている。

Instagram@mountaincollector
 


──鈴木さんは 「山岳収集家」 という肩書きで活動されていますが、 具体的にはどのようなプロジェクトを行っているのでしょうか?

鈴木優香さん (以下、 敬称略):
ライフワークとして世界中の山を旅しながら、 道中で出会う景色を拾い集めるように写真に収めています。 その中で生まれたのが、 山で見た景色をハンカチに仕立ててゆくプロジェクト 「MOUNTAIN COLLECTOR」 (2016年〜)。 その他にも山の植物で草木染めをするプロジェクト 「COLORS OF MOUNTAIN」、 海外トレッキングに行った先で雑貨の買い付けを行うなど、 山にまつわる様々な活動をしています。 写真やデザイン、 執筆など表現の方法が多岐に渡るので 「写真家」 や 「デザイナー」 といった具体的な職業ではなく、「山岳収集家」 という肩書きをつくることで自身の活動内容を表すことにしました。

鈴木優香展
 

──もともとはアウトドメーカー 「モンベル」 に勤務されていたそうですが、 現在の活動をはじめたきっかけはなんだったのでしょうか。

鈴木:

小さい頃から絵を書いたりものをつくったりするのが好きで、 高校2年生の時に美術系の大学に進むことを決めました。 東京藝術大学でデザインを学んだ後、 モンベルに入社して商品デザインに携わったのですが、 自分自身のものづくりをしたいという思いが徐々に強くなり、 4年勤めた後に独立しました。

──登山をはじめたのは、 モンベルに入社したのとほぼ同時期だったとか。 写真を撮りはじめたのも同じタイミングですか?

鈴木:
写真は大学生の頃からですね。 父から一眼レフフィルムカメラを譲り受けたのがきっかけで、 周りの友人や日常の風景などを撮りはじめました。 フィルムだと何気なく撮ってもすごくいい雰囲気の写真が撮れて、 それで写真が好きになったという側面があります。 モンベルに入社して登山をするようになってからは、 撮影の対象は山の中で出会う景色へと移っていきました。 その後、 撮りためた写真を手に取れるかたちあるものとして残したいという気持ちが強くなり、 「MOUNTAIN COLLECTOR」 の活動に繋がっていきます。

鈴木優香展
 

大事なものだけが手元に残る感覚

──デジタルカメラが世の中の主流になった現在もフィルムカメラで撮影をされているそうですが、 鈴木さんが思う 「フィルムカメラの良さ」 とは何でしょうか。

鈴木:
まず質感や色味が好きだということが大きいのですが、 撮れる枚数が限られていることで直感が研ぎ澄まされる感覚は、 フィルムカメラ特有のものだと思います。 じっくり景色と向き合いながら、 撮る・撮らないを見極めた結果、 手の中に残るのは大事なものだけ……という感覚が、 すごく気持ちいいなと思って。

鈴木優香展

パキスタンの旅では、 メインとサブの一眼レフ、 コンパクトカメラ、 8mmカメラの計4台を持って山に登ったそう。 旅の途中にメインカメラの 「CONTAX」 が壊れてしまったので、 現在は 「YASHICA」 を使っている。

 

──時々、 自分のスマホのカメラロールを見て 「同じような写真をこんなに撮っていたのか!」 と驚くことがあります。 もちろんその時は心が動いたから撮ったはずなのですが、 一枚一枚の写真への愛着や思い入れはそこまで強くない気がします。

鈴木:
そうなんですよね。 何となく沢山撮ってしまうと撮影対象への思いも薄まってしまう感じがするので、 ちゃんと向き合いたいなと。 そのかわり、 現像に出す時はいつも緊張します。 「全く撮れていなかったらどうしよう」 って。 実際に、 ブレていたり想像と違ったということも多いですが、 いいなと思える写真が何枚かあればそれで満足です。
 

 
鈴木優香展

今回の展示は、 パキスタンのカラコルム山脈を16日間かけて旅しながら撮影した写真と映像で構成される。

 

紙ではなく布に落とし込む理由

──鈴木さんはご自身が撮った写真を世の中に発表する際、 紙ではなく布 (ハンカチ) に落とし込む、 というスタイルからスタートされました。 「MOUNTAIN COLLECTOR」 というプロジェクトをはじめてから約8年が経ちますが、 ご自身の山の体験をハンカチというかたちで表現しようと思ったのはどんな経緯がありましたか?

鈴木:
もともと布という素材が大好きだというのも大きな理由ですが、 この透け感や光の具合によって見えかたが変わる感じが、 山に登った時の自分の気持ちとマッチするなと思ったからです。 山の中にいると、 雲間から一瞬だけ光が差し込んだり、 霧が急に晴れて視界が開けたり、 その時にしか見られない美しい瞬間に出会うことがあるのですが、 そういうある種の 「儚さ」 みたいなものを表現するのにこの布が最適だなと思ったんです。 そして、 布の四方を縫うことで完結する最小限のプロダクトがハンカチだったというわけです。

鈴木優香展
 
鈴木優香展
 
鈴木優香展
 

──“気持ちを表現する” ということでいうと、 パキスタンの旅を終えた後、 ハンカチの制作と合わせて旅の様子を記録した書籍も制作されました。 今回の展示は、 旅の記録を写真作品、 映像、 書籍、 そしてプロダクトと様々なかたちで体感できる場になりますね。

鈴木:
そうですね。 パキスタンの旅では、 沢山の美しいものに触れたと同時に辛い思いや悔しい思いも同じくらい経験しました。 けれど、 ハンカチには綺麗な記憶しか反映できていないなという感覚があって、 そこには込められなかった思いを綴るようなかたちで旅の日記を一冊の本にまとめました。 ぜひ会場で手に取っていただけたらと思います。

鈴木優香展

今回の展示会場でも販売する、 パキスタン・カラコルム山脈に位置するK2ベースキャンプを目指した旅の記録 『20220624-20220709・K2 BASE CAMP・PAKISTAN』。 掌に収まる文庫本サイズ。

 

──作品写真をメインにした展示は今回で2度目のことですが、 ハンカチ以外のかたちで自身の作品を見ていただく楽しさはどんなところにあると感じますか?

鈴木:
山の写真を撮る時、 基本的には自分自身の記録のために撮るというニュアンスが強いんです。 つまり、 人に見せることを前提として写真を撮っていないんですね。 プロダクト (ハンカチ) をつくる時はデザイナー目線ですが、 写真を展示する時は作家的立ち位置なので、 より自分自身を曝け出しているような気持ちになり、 はじめての写真展はとても緊張しました。

──そうなんですね。

鈴木:
でも、 やってみてよかったなと思いました。 展示したのはパキスタンの旅の写真なので、 実際にそこを訪れたことがない方がほとんどです。 けれど、 見に来てくださった方々それぞれが今まで見てきた山の景色や経験と重ね合わせてくださったり、 何かしら共通点を探してくださる感じがすごく面白かったです。 一度個展をやったことで自信に繋がりました。 今回の展示も、 どういう反応をいただけるのかな? とワクワクしています。

──最後に、 展示を見に来てくださる方へメッセージをお願いします。

鈴木:
お時間の許す限り、 じっくり作品を見ていただけたらと思っています。 展示会場内を回ることで、 パキスタンの旅を追体験していただけるような構成でお迎え出来たらと考えていますので、 ぜひ会場へ足をお運びください。  

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Information
鈴木優香 写真展「旅の結晶」


会期:2024年7月13日(土)〜7月28日(日)
営業時間:水曜〜日曜 12:00〜17:00 定休日:月・火曜
作家によるギャラリーツアー:7月14日 (日)、20日 (土)、27日 (土) 各日15時〜
参加費:無料 定員:10名 ※当日受付・先着順
会場:GALLERY CLASKA (住所:東京都港区南青山2-24-15 青山タワービル9階)
●東京メトロ銀座線 「外苑前」 駅 b1出口より徒歩1分


【ご来場にあたってのお願い】
・当ギャラリーはオフィスビルの中にございます。 建物内にはお待ちいただけるスペースが十分にございませんので、 出来るだけオープン時間にあわせてお越しください。
・共用部などでお待ちいただくとほかの入居者の方のご迷惑となりますのでご遠慮ください。