TOKYO AND ME

東京で暮らす人、 東京を旅する人。
それぞれにとって極めて個人的な東京の風景を、 写真家・ホンマタカシが切り取る。

写真:ホンマタカシ 文・編集:落合真林子 (CLASKA)


Vol.49 小暮香帆 (ダンサー・振付家) 


PLACE : 荒川橋梁 (北区)

 

 

 

 

 

 

 

 

Sounds of Tokyo 49. ( Arakawa Bridge )


改めて考えてみたら、 東京には色々と思い入れのある場所が多いんです。
20代にアルバイトをしていたビアパブや喫茶店がある池袋や神保町、 祖父の家があった日暮里、 それから今住んでいる街が目黒川に近いので、 その辺りとか。

じゃあ自分にとって東京の原風景って何だろう? と考えた時にまず頭に浮かんだのは、 埼玉と東京の間を流れる荒川に架かる 「荒川橋梁」 を電車で渡る時に車窓から見える景色でした。
たぶん、 というか確実に、 自分の人生で最も多く見てきた景色だと思います。

出身は埼玉の所沢市です。 5歳の時に同じ県内の鴻巣市に引っ越して、 それから20代後半で上京するまでは実家で暮らしていました。

踊ることをはじめたのは6歳の時。
地元のモダンバレエ教室に通っていたのですが、 教室の先輩たちは高校を卒業したら 「日本女子体育大学」 の舞踊学専攻に進むという流れがなんとなく出来ていて、 私も同じ道へ進みました。

幼い頃から日暮里にある祖父の家に遊びに行ったり、 中学・高校生くらいになると時々友達と一緒に渋谷や原宿へ遊びに行ったりしていましたが、 大学に入ってからは毎日のように電車で東京と埼玉を行き来するようになりました。 通学以外にも、 アルバイトやダンスのリハーサル、 公演本番へ出かけたり。

大学は千歳烏山にあって、 実家のある鴻巣市からは2時間弱かかりました。
往復4時間。 電車の中で何をしていたかというと……携帯でメールを送ったり、 本を読んだり、 ぼーっと考えごとをしたり、 時々テスト勉強をしたり。 音楽を聴くのも日課でした。
ふと思い出しましたが、 大学受験本番の日は当時兄の影響でハマっていた THE BLUE HEARTS を聴きながら川を越えた記憶があります (笑)。

幼い頃、 母と一緒に電車に乗った時に 「荒川を越えたら東京だよ」 と教えてくれたことが強く記憶に残っています。 そうか東京なのか、 と。

自分と東京の間にはいつも川が流れていて、 電車が橋に差し掛かって 「ガシャンガシャン」 と音をたてる時、 車窓からの景色がパンと開ける瞬間、 気持ちが切り替わってスイッチが入るような感覚が幼い頃からずっとありました。

私にとって 「東京に行く」 ということは、 イコール 「何かアクションをしに行く」 という側面があります。
自分がアクションをして、 それに対するリアクションがあって、 沢山のコミュニケーションや循環が生まれる場所が東京なんです。
"アクション" というのは、 時に受験やテストだったり、 ダンス公演のリハーサルだったり本番だったりしたんですけど、 そういう勝負の日は橋梁を渡る時に背中を押してもらっているような気持ちになりましたし、 クタクタに疲れた帰りの電車では車窓から見える景色に癒されました。
今思えば、 東京と地元を行き来する時間にそっと支えてもらっていたのかもしれませんね。

20代の後半、 東京で暮らしはじめた頃にまず驚いたのは、 目的地まであっという間に到着してしまうことでした。 電車に乗って一息ついたと思ったら……もう着いてる! って (笑)。

学生時代は意識しなかったけど、 大人になるとぼーっとする時間ってなかなか持つことができないじゃないですか。 そういう時間を確保しようと思ったら、 カフェに行ったり散歩したり強制的につくらなきゃいけない。
そう思うと、 あの4時間はとても貴重だったなと。

例えば出勤前にコーヒーを一杯飲むとか、 みんな何かしら "スイッチを切り替える時間" みたいなものを持って日々暮らしていると思うんですけど、 私の場合、 そういう時間が好きな風景や音と結びついていたっていうのは……なんかいいな、 って思います。


Profile
小暮香帆 Kaho Kogure


ダンサー ・ 振付家。 舞台、 音楽ライブ、 メディアなど境界を越えて動きの美学を展開。 国内外で自身の作品を発表しながら多数の振付家作品に出演。 近年は他ジャンルのアーティストとのコラボレーション、 映画への振付、 パリコレクション出演など活動の幅を広げている。 DaBY レジデンスアーティスト。 日本女子体育大学附属二階堂高等学校ダンスコース非常勤講師。 めぐりめぐるものを大切にして踊っている。

HPhttps://kogurekaho.com/
Instagram@kahokogure

東京と私