TOKYO AND ME
東京で暮らす人、 東京を旅する人。
それぞれにとって極めて個人的な東京の風景を、 写真家・ホンマタカシが切り取る。
写真:ホンマタカシ 文・編集:落合真林子 (CLASKA)
Sounds of Tokyo 47. (NAKANO BROADWAY)
幼い頃から集団行動が苦手で、 学校があまり得意ではありませんでした。
小中学校の時もそうでしたし、 高校も休みがちだったんです。
地元は長崎で、 家の近所に大きな川が流れる街で育ちました。
学校に行かない日に何をしていたかというと、 河川敷に座って遠くに小さな山々が連なる様子を眺めながら 「生きものに見えるまで見続けたらどうなるだろう ?」 と空想したり、 絵を描いたりお話を書いたり。
学校には居場所が見つからなくて、 そういう一人の時間を "自分の場所" としていた気がします。
はじめて東京を意識したのは、 小学生から中学生にかけて愛読していた 『Spoon』 という雑誌を通してでした。
憧れとか、 いつか上京したいという感情はありませんでしたが、 雑誌の中で見る写真や触れる言語などを通して漠然と 「こういう感じが "東京" なんだろうな」 と感じたのを覚えています。
その後、 再び東京と関わりを持つきっかけになったのは大学受験。
日常的に音楽に親しんではいましたが、 高校2年の時、 ある方との出会いをきっかけに本格的に打楽器を学びたいと思い 「東京藝術大学」 の音楽学部を目指すことにしました。
残念ながら準備不足もあり1次試験で落ちてしまったのですが、 翌年の合格を目指して上京することに。 国分寺にアパートを借りて1年間の浪人生活を送り、 2年目のチャレンジで念願の音大生になることができました。
気が付けば上京してから15年程が経ちます。
引っ越しが好きでこれまで色々な街で暮らしてきましたが、 最も長い時間を過ごした場所であり強い愛着を感じるのが中野です。
別の場所で暮らす今でも、 中野に来ると 「ただいま」 という気持ちになるんですよね。 そう思わせるのは、 「中野ブロードウェイ」 の存在が大きいと思います。
20代の終わり、 音楽活動をしながらブロードウェイでアルバイトをする生活を送っていました。
服装が自由でスケジュールの融通が利いて条件が良くて、 という感じで調べていたら、 たまたまブロードウェイ内のアンティーク時計を扱う店にたどり着いたんです。
時計に興味があったわけでもないですし、 実はブロードウェイ自体にもちゃんと行ったことがなかったのですが。
あの場所をどんな言葉で表現したらいいのか……。
何というか、 時空が歪んでいる感じがしますよね (笑)。
建物自体も迷路みたいですし、 個性の強い大小さまざまなお店がひしめきあって、 働いている人たちもお客さんなのか店員なのか曖昧な感じだったりして。
でも気が付いたら自分の中で大切な場所になっていたというか、 元気をもらう存在になっていました。
ウルトラマンの怪獣やゴジラといったその世界に明るくない私でも知っている有名なものから、 「これは一体何 ?!」 というマニアックなものまでたくさんの怪獣がショーウィンドーに並ぶ店が幾つかあるのですが、 よく見てみると足が沢山あるとか、 身体の一部が変形して石になっているとか、 "ほぼ羽だけ" みたいな見た目のものとか……まさに十人十色で。
ヒーロー的な立ち位置の怪獣もいたでしょうし、 ひたすら悪者だったり毎回ヒーローにやられちゃうような悲しい運命の怪獣もいたと思います。 そういった背景を私は知らないけれど、 みんなそれぞれに 「かっこいい!」 と思わせる何かを持っているように思えて勇気づけられたんですよね。
「私、 もっとちゃんとした方がいいのかな?」 と不安に思ったり、 社会生活がうまくいかなくて自分に自信が持てなくなったり。
たぶん誰にでもそういう時期ってあると思うのですが、 私もブロードウェイでアルバイトをしていた20代後半に時々そういう気持ちになった時がありました。 でも、 怪獣たちを眺めていると自分もユニークな怪獣の中の1匹なんだと思えて 「別に普通じゃなくてもいいじゃないか!」 と、 前向きな気持ちになれたんです。
そしてどんな怪獣にも、 生みの親が存在するわけで。
色々な人の空想や思いがかたちになったものが集まる場所にそれに熱中する人達が集って、 建物自体が "人がものを愛する念" でかたちづくられている感じがいいなぁって……。
サブカルチャー云々ということではなく、 そういうところに心惹かれたんだと思います。
集っている人たちは、 年齢的には大人なんだけど瞳や佇まいが大人じゃないっていうか(笑)。 オフィス街や別の町に行って中野に帰ってきた時にブロードウェイの空気に触れると、 なんだかほっとするものを感じました。
ブロードウェイを知ったことで気が付いたのは、 東京には規模の大小はあるにせよ誰にとっても居場所があるんだということです。
何かに熱中する気持ちを受け止めてくれたり、 自分以外の誰かとその思いを分かち合えるような居場所がジャンルを問わず存在している。 それってすごいことだと思いませんか?
ブロードウェイを例にとっても、 いつも大勢の人で賑わっている人気店もあれば、 シャッターが閉まりがちな一角もあったり、 決して繁盛している様子はないけれど長く続いている店があったり。
働いている人もお客さんも色々なキャラクターの人がいて、 "皆それぞれのLIFEを生きてるよ!" という感じが伝わってきて、 最高だなって。
ここは、 東京という街のひとつの縮図と言えるのかもしれませんね。
Profile
角銅真実 Manami Kakudo
長崎県生まれ。 マリンバをはじめとする多彩な打楽器、 自身の声、 言葉を用いて、 自由な表現活動を国内外で展開中。
2024年1月に4年ぶりのソロアルバム 『Contact』 をリリースした。
Instagram:@manami_kakudo
東京と私