堀井和子インタビュー

1丁目ほりい事務所 企画展/堀井和子さん・啓祐さん Interview

「フラットなobjet. いろいろトート」

毎年恒例となった、 1丁目ほりい事務所の企画展が
2023年11月17日から12月3日までの会期で開催中です。
今回の会場に並ぶ商品について、 そしてお二人のものづくりについてお話を伺いました。

写真:柳川暁子(CLASKA)/文・編集:落合真林子(CLASKA)




Profile
1丁目ほりい事務所


料理スタイリスト・粉料理研究家として、 レシピ本や自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍や旅のエッセイなどを多数出版してきた堀井和子さんと、 ご主人の堀井啓祐さんが2010年に設立。 CLASKA Gallery & Shop "DO" と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行う。

Interview:「つくる人 Vol.15 “わくわく”を積み重ねた先に
CLASKA ONLINE SHOP連載: 「堀井和子さんの 「いいもの、 好きなもの」



堀井和子
堀井和子
堀井和子

──2010年に 「1丁目ほりい事務所」 がスタートして以来、 様々なテーマで企画展を行っていただいています。 毎回、 どのような流れでものづくりが進んでいくのでしょうか?

堀井和子さん (以下、 敬称略):
これまで開催してきた企画展のすべて共通しているのは 「こういうものがあったらいいな」 という気持ちからスタートしているということです。 最初にテーマを考えるというよりは、 “こういうものが欲しいな。 でも、 なかなか手に入らないな” と思うもののピースを集めていくことから、 ものづくりがはじまることが多いです。 言葉やテーマは後からついてくる感じですね。

──今回の企画展のタイトルは 「フラットなobjet. いろいろトート」 です。 どのようなものへの興味から、 構想がスタートしたのでしょうか?

堀井:

自分でまとめたアート関係のファイルや、 ふたりで旅行をした時に撮った美術館の写真などを見ながら 「何かヒントになるものはないかな」 と探していた時に目に留まったのが、 30年くらい前に南仏の 「マーグ財団美術館」 で購入した 『DERRIERE LE MIROIR』 という冊子と、 ジャン・アルプが装丁を手掛けた本でした。

堀井和子

CLASKA ONLINE SHOP 堀井和子さん連載 「いいもの、みつけました!」 第27回より


──のびやかさ、 自由さを感じさせる線が素敵ですね。

堀井:
不完全な円や、 そこに不規則な穴が空いている感じが良いなぁと思いました。 自分がこれまで撮りためてきた写真をチェックしながらこれらに近いモチーフを探したのですが、 その中で一番ピンと来たのが、 古くからの友人が薄いブリキでつくった穴あきのレードルでした。 “これをモチーフに、 オブジェをつくれないだろうか?” と、 作者の友人に許可をもらうところから今回の展示に向けての動きがスタートした感じです。 このレードルからどんどんイメージが広がっていって、 今回11種類のオブジェが出来上がりました。 木やアルミ、 ブリキなどさまざまな素材を使っています。

堀井和子

友人作のレードルをヒントにスケッチをして出来上がったオブジェ。 アルミ製。


堀井和子

展示会場には 「雲」 モチーフのものも多く並ぶ。



──どのオブジェにも、 思わずにっこりしてしまうようなユーモアを感じますね。

堀井:
制作を担当してくださった作家の長谷泉さんが、 私がスケッチした線を生かしてくださったからかもしれません。 研ぎ澄まされた線ではなくて少しアバウトさがあるから、 ブリキやアルミといったクールな印象の素材でも冷たすぎないというか、 かわいい表情に仕上がりました。

堀井和子
堀井和子

知人のスケートボートをモチーフにつくった木製オブジェ。



──「オブジェ」 の面白さって、 どんなところにあると思いますか?

堀井:
私たちがつくりたいのは “アートと日用品の中間” といえるもので、 今回つくったオブジェはまさにそういう存在として機能するのではないかと思っています。 世の中の大半のものは、 例えば同じコップでも 「これは実用品、 これはアート作品」 というようにジャンルが分けられているように感じますが、 私自身は心が動かされる理由にジャンルは関係ないというか……美術館に飾ってある現代アートの作品もマルシェで野菜を入れているカゴやテーブルも、 同じようにいいな、 と思う瞬間があるんですね。

──オブジェって、 ものとしての “肩書き” がないものとも捉えられますね。 使い手が自由に用途を決められるおおらかさを感じます。

堀井:
そうですね。 例えば今回つくったブリキ製のオブジェは素材の特性として経年変化で黒くなっていくんですけど、 その変化を楽しみながら生活空間で好きなように楽しんでもらえたら。 そのままオブジェとして飾ってもいいですし、 花瓶などを載せるトレイとして使ってもらってもいいですしね。 「重いものは載せられないけど、 こういう使い方はできるな」 という感じで、 工夫して楽しみながら使ってもらえたら嬉しいです。


堀井和子

「星耕硝子」 制作のガラス製オブジェ。 一点一点手仕事でつくられているため、 様々な表情が。


──ガラス製のキューブ型オブジェも素敵ですね。 なぜかわからないけどじっと見入ってしまいます。

堀井:
なんだか和みますよね (笑)。

堀井啓祐さん(※以下、敬称略):
星耕硝子では、 普段はご主人がひとりでガラス製品をつくっているそうなのですが、 このキューブは作業工程的にもう一人人手が必要ということで奥さまと二人三脚でつくってくださいました。

──そうなのですね。 星耕硝子さんは、 毎年恒例となっているツリーのガラスオーナメント制作も担当されています。 お付き合いが長く、 お互いのことを分かっている方々とのものづくりは楽しそうですね。

堀井:
私も主人もプロではないしわからないことばかりなんですけど、 つくり手の方々とやり取りを重ねた結果満足のいく良いものが出来て……ありがたいなっていつも思います。 なにより、 つくり手の皆さまが面白がって取り組んでくださるのがすごく嬉しくて。


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野上美貴さんによる、 手織りのクロス。


──染色織物作家の野上美喜さんが手織りしたクロスも気になります。 真っ白なクロス、 贅沢ですね。

堀井:
大量生産品ではないので決して安価ではないですし、 シミが目立つ色なので使い手としてはケアが必要ですが、 使う人が一生大切にしたくなるようなキッチンクロスがあってもいいんじゃないかなって思ったんです。 とっておきの日にだけ使いたい、 思わせてくれるような。

堀井和子

今回の展示のために新たに制作されたトートバッグは6種類。 持ち手や大きさも様々で、 一部のトートバッグは生地選びからサイズ・持ち手の長さまですべて堀井さんが選んだもの。 「小さな生地見本が大きくなった時のことを想像するのが難しくて、 1週間くらい悩みました (堀井さん)」


──今回の展示には、 さまざまなバリエーションのトートバッグも並んでいます。

堀井:
私の姪が小学校1〜2年生くらいの時に描いた絵や文字をプリントしています。 もう今はすっかり大人になっているのですが、 姪が幼い頃に描いた作品を宝物みたいにとってあって。 飄々としていてユーモアがあって、 大人が描こうと思っても描けない線ですよね。 実は私が描いた格子と文字柄もトートバッグにプリントする計画があったのですが、 印刷が難しいということでボツになりました (笑)。

堀井和子
堀井和子

今回の展示には、 渋谷の元代々木町にある 「LE CAFE DU BONBON」 のお菓子も並ぶ。 「すごくシンプルだけど焼き加減が絶妙で、 “こういうお菓子があったらな” という、 私にとって理想的なお菓子なんです。 今回、 パッケージもオリジナルでつくっていただきました (堀井さん)」



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毎年恒例となった、 小さなツリー。 木工作家の吉川和人さんがつくった栗の木のツリーに6つのオブジェが付く。 「吉川さんが新しい鉋を入手されたとのことで、 いつもに増して洗練された印象のツリーになりました (啓祐さん) 」 ※ツリーは全て完売いたしました。



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今回は特別に、 オーナメントのみの発売も。



──お二人が 「1丁目ほりい事務所」 をスタートして13年が経ちました。 「自分が欲しいと思うもの、 ありそうでないものをつくる」 という姿勢は、 これからも変わらずでしょうか。

堀井:
そうですね。 あとは、 「自分たち二人で出来る範囲で」 ということも結構大切だったりします。 これまで色々失敗も経験していますし (笑)。

啓祐:
もちろん梱包や発送もすべて自分たちでやるので、 年齢的に陶器を運ぶのはちょっと辛くなってきたから、 これからはあまり重いものはつくれないな、 とかね。

堀井:
「自分が欲しいもの」 ということもそうなのですが、 大量生産品だとはじかれてしまうであろうアイデアをかたちにする、 というのも私たちらしいのかなと思います。 あとは…… 「売れるもの」 ってよくわからないな、 という気持ちもあります。 ものすごく売れる商品って、 時代の空気やその時の流行りみたいなものも大きく作用すると思うのですが、 これまでに自分たちがつくったものですごく売れたものが 「自分自身もずっと大切に使っていきたいか?」 というと、 必ずしもそうではない気がして。

──なるほど。

堀井:
だから今回、 野上さんに織っていただいたクロスの色選びに関しても、 きっと汚れの目立たない濃い色の方が売れると思うけれど白もつくろう、 と。 「売れるか・売れないか」 を重視するよりも、 売れ残って自分の手元に戻ってきた時に嬉しくなるものをつくったほうが幸せだな、 と思います。

啓祐:
「1丁目ほりい事務所」 をはじめた頃は、 やはり “実用的であるかどうか” を今よりも意識していた気がします。 でも、 成功も失敗も経験する中で段々と変わってきましたね。

堀井和子

堀井さんによるコラージュ作品。



堀井和子

堀井さんの著作や、 過去に制作した器やジャム入れも。



────最後に、 展示を見に来てくださる方へメッセージをお願いします。

堀井:
自分の住んでいる空間だったら、 どんな風にオブジェをレイアウトするかな? どんな使い方ができるかな? といったことを想像しながら見て頂けると楽しいと思います。 トートバッグは、 私自身も洋服との組み合わせを意識しながら生地や色選びをしたので、 ストールやマフラーのような感覚で選んでいただくのもいいかもしれません。 お時間の許す限り、 ゆっくりご覧になっていただけると嬉しいです。

堀井和子






Information
企画展 「1丁目ほりい事務所 フラットなobjet. いろいろトート」


会期:2023年11月17日(金)〜12月3日(日)
営業時間:水曜〜日曜 12:00〜17:00/月・火曜休廊
会場:GALLERY CLASKA (東京都港区南青山2-24-15 青山タワービル9F)
●東京メトロ銀座線「外苑前」駅 1b 出口より徒歩1分

<出品アイテム>
FLAT な Objet(木、竹ヒゴ、アルミ、ブリキ)/いろいろなトートバッグ/栗の木のツリー/ツリーのオーナメント/LE CAFE DU BONBON の焼き菓子/雲のお皿/リネンのクロス/Carre Objet/和紙のコラージュ/これまでの企画展でつくったもの/書籍 ほか

*一部の商品は会期終了後のお渡しとなります。


<関連イベント>
プチHORIMA


過去に開催して大好評だった "HORIMA(堀井さんがご自宅で使っていたものを大放出するフリーマーケット)" のコンパクト版、「プチHORIMA」を開催します。何が出るかは当日のお楽しみ!

日時:11月25日(土) 12:00〜(商品がなくなり次第終了予定)
*参加無料・ご予約は不要です。

【当日のご注意事項】
・状況に応じて整理券を配布いたします。
・入場制限やご購入の点数制限を設けさせていただく場合がございます。あらかじめご了承ください。
・建物内でお待ちいただけるスペースが限られておりますので、なるべくオープン時間に合わせてお越しいただきますようお願い申し上げます。