「ANDO GALLERY CALENDAR」 と 「ANDO’S GLASS」 でおなじみのアンドーギャラリーが、 9年ぶりの新作 「ANDO GALLERY DIARY」 を発売しました。
スケジュール管理をデジタルで行うことが主流になりつつある今、 ダイアリーをつくった理由とは?
デザインを担当したアートディレクターの葛西薫さん、 アンドーギャラリーの安東孝一さんの二人に話を伺いました。
進行は、 CLASKA Gallery & Shop “DO” ディレクターの大熊健郎が担当します。

写真:川村恵理 編集・文:落合真林子(CLASKA)


CONTENTS

第1回/カレンダーから21年ぶりに

第2回/手帳ではなくダイアリーである理由

第3回/デザインの秘密

第4回/一度使ったら離れられないもの

Profile
葛西薫 (かさい・かおる) / 中央

アートディレクター。 文華印刷、 大谷デザイン研究所を経て、 1973年サン・アド入社。 代表作に、 サントリーウーロン茶、 ユナイテッドアローズ、 虎屋の長期にわたるアートディレクションなど。 映画・演劇の宣伝制作、 パッケージデザイン、 ブックデザインなど活動は多岐。 著書に 『図録 葛西薫1968』 (ADP)。 東京ADCグランプリ、 毎日デザイン賞、 講談社出版文化賞ブックデザイン賞など受賞。

Profile
安東孝一 (あんどう・こういち) / 右

プロデューサー。 1984年に 「アンドーギャラリー」 設立。 アート・建築・デザインのプロデュース、 オリジナルプロダクトの開発を行う。 これまでに発表したオリジナルプロダクトは 「ANDO GALLERY CALENDAR(2002年〜)」「ANDO’S GLASS(2014年〜)」。 主な著作に 『MODERN art, architecture and design in Japan』 (六耀社)、 『インタビュー』 (青幻舎) など。

Interview:「OIL MAGAZINE/つくる人 Vol.18 夢を見る人」 前編後編

第1回
カレンダーから21年ぶりに

CLASKA 大熊健郎 (以下、 大熊):
アンドーギャラリー初のオリジナルプロダクトとして2002年に発表した 「ANDO GALLERY CALENDAR」、 そして2014年に発売した 「 ANDO’S GLASS」 は、 いずれもロングセラーとして大きな支持を得ています。 そして今回、 21年ぶりに葛西薫さんとタッグを組んだ 「ANDO GALLERY DIARY」 が発売になりました。 まずはその経緯からお話いただけますか?

安東孝一さん (以下、 敬称略):
今年の5月末に、 清澄白河で15年間続けてきた現代美術のギャラリー 「アンドーギャラリー」 を閉廊しました。 今後、 アート・建築・デザインのプロデュースとオリジナルプロダクトの開発を軸に新たなスタートを切るにあたって、 まずはここ数年あたためてきた 「ダイアリーをつくる」 という計画を実行しようと。 デザインは、 カレンダーに引き続き葛西さんにお願いしたいと思いました。

大熊:
安東さんからデザインを依頼された時、 葛西さんはどうお感じになられましたか?

葛西薫さん (以下、 敬称略):
無謀だな、 と思いましたね。

安東:
あはは (笑)。

アートディレクターの葛西薫さん

葛西:
秋口になるとあちこちに手帳やダイアリーの売り場ができて、 日本製から海外製のものまで、 ものすごい種類の商品が並びますよね。 市場が熟しているので 「名作」 と呼ばれるものも既に色々あるでしょうし……。 その一方で、 世間を見渡してみると、 今はスマートフォンでスケジュールを管理している人がとても多いでしょう?

安東:
6割以上の人が、 スケジュール管理はスマホ派だそうですよ。

葛西:
ですから、 今このタイミングでダイアリーをつくるという選択が、 そもそも大丈夫なのだろうか? と心配になったんです。 デザインを引き受けたらきっと大変なことになるに違いない。 安東さん、 今回の案件は考え直してくれないかな? と (笑)。

2002年にアンドーギャラリーが制作・販売スタートした 「ANDO GALLERY CALENDAR」。 デザインは葛西薫さん

大熊:
お二人はとても長いお付き合いになるそうですが、 そもそもどういうきっかけでお知り合いになったんですか?

安東:
1995年に 『MODERN art, architecture and design in Japan』 という本を出版した際、 僕自身が注目するグラフィックデザイナーとして葛西さんに登場していただいたのが最初です。 葛西さんの仕事をはじめて知ったのは僕が28歳くらいの頃だったと思うのですが、 友人に見せてもらった本の中に葛西さんが手がけたサントリーの広告が載っていて、 まるでアートのような美しさだなと感じたことを覚えています。 それ以来、 いつか一緒に仕事をしたいと思っていました。

葛西:
あの時代、 僕自身の仕事の8割は広告でしたから、 安東さんも広告の仕事をメインに紹介してくれるんだろうなと思ったら、 「広告作品は載せません」 とおっしゃるものだから驚いちゃって。

安東:
広告の仕事は、 コピーライターや写真家など大勢の人たちと一緒につくり上げる仕事ですよね。 それよりも、 葛西さんが自分の手だけでつくり上げたグラフィックワークを紹介したいと思ったんです。

葛西:
実は当時、 「自分から広告を外してしまったらデザイナーとして成り立つのだろうか?」 と考えていたところもあったのでとても嬉しかったし、 大きな励みになったのを覚えています。 以来、 様々なプロジェクトでご一緒してきました。

安東:
葛西さん、 これまで何かをお願いするといつも 「わかった」 と即答してくださったのに、 今回は違ったんですよ。

葛西:
もちろん興味はあったんですよ。 でも、 いまいち自信を持ちきれないところがあったんです。 先ほど申し上げたように、"手帳やダイアリーと、 今の世の中の関係性" も無視できないですからね。 デザインの力だけではどうにもならないこともあると思うんですよ。

安東:
ダイアリーをつくる構想は葛西さんにお声がけをする2年前くらいからあったのですが、 実はご相談をする前の年に自分の中で 「やっぱりつくるのはやめよう」 という結論を一度出していたんです。

大熊:
それなのに、 僕が何も考えずに後押ししてしまったんですよね (笑)。

葛西:
そうでしたか!

大熊:
ある時安東さんと久しぶりにお会いする機会があって、 色々と話をする中で 「カレンダーが発売から20年経った今も変わらず好評なのだから、 ダイアリーもつくればいいのに。 僕だったらつくりますね」 という話をしたんですよ。 その時ちょうど、 今まで使っていた手帳が入手できず新しいものを探していたのですが、 これといったものが見つからなくて困っていたんです。 そうしたら安東さんが 「実は、 僕もそれを考えていたんですよ」 と。

安東:
一度諦めたのに、 大熊さんが蒸し返したんです (笑)。

葛西:
僕自身も手帳ユーザーなので、 既存のものへの不満はあるわけです。 だから、 お引き受けするとしたら 「僕だったらどういうものが欲しいんだろう?」 ということを改めてじっくりと考える必要がありますし、 軽い気持ちでは引き受けられないなと思ったんです。 最終的に、 最初にお話を頂いてから数か月後に 「長い目で見てくれるなら」 と、 返事をさせて頂きました。

大熊:
ANDO GALLERY CALENDAR」 の時も、 葛西さん安東さん共に "自分で使いたいカレンダーがない" という気持ちがきっかけになったと伺っています。

安東:
そうですね。 でも、 ようやく引き受けて頂いて嬉しかったのも束の間、 その後しばらく葛西さんから音沙汰が無くて (笑)。

葛西:
僕もやりますと返事をしたものの、 どこかで 「安東さん、 本当にやるのかな……?」 と半信半疑なところがあって。 「葛西さん、 そろそろデザインが必要です」 という安東さんの冷静な口ぶりを聞いてようやく、 「あ、 本気だったんだ」 と(笑)。


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