前編/デザイナー猿山修さん インタビュー
企画展「猿山修 / ギュメレイアウトスタジオの仕事」の開催を記念して、デザイナーの猿山修さんにCLASKAオリジナルの革製サコッシュをデザインして頂きました。
男女問わず長く愛用いただけるバッグの魅力を、2回にわけてご紹介します。
写真/野口祐一 編集・文/落合真林子(OIL MAGAZINE/CLASKA)
Profile
猿山修 Osamu Saruyama
デザイナー。「ギュメレイアウトスタジオ」主宰。1996年より元麻布で古陶磁やテーブルウェアを扱う「さる山」を営み、2019年に閉店。現在はグラフィック、空間、プロダクトまで幅広いジャンルのデザインを手掛けると同時に、演劇音楽の作曲や演奏にも携わっている。
2022年6月11日より企画展「猿山修 / ギュメレイアウトスタジオの仕事」が「GALLERY CLASKA」でスタート。
https://guillemets.net/
>>OIL MAGAZINE連載「つくる人」vol.16 猿山修がデザインするもの
https://www.oil-magazine.com/creator/72659/
—— 今回は、素敵なデザインを提供頂きありがとうございました。出来上がり、いかがでしょうか?
猿山修さん(※以下、敬称略)
良いですね。イメージ通り出来たんじゃないでしょうか。
—— そう言って頂けて安心しました。これから長く愛される商品に育っていけばいいなと思っています。今回のインタビューでは、「Sacoche angle 135
」が出来るまでの経緯やデザイナーとして意識したポイントについてなど色々と伺わせていただきますので、どうぞよろしくお願いします。
猿山:
よろしくお願いします。
—— 突然ですが猿山さん、外出時は常にバッグを持ってらっしゃいますか?
猿山:
常にではないですね。ただ試作を持って打ち合わせに出かけたりする機会も多いので、そういう時はメッセンジャーバッグのような斜め掛けバッグを持っています。趣味でもある自転車に乗って移動することが多いですし、もともと手でバッグを持って歩くのがあまり好きではない、ということもありまして。
「 Sacoche angle 135 」 16,500円(税込)。2022年6月11日より販売開始。ブラックとブラウンの2色展開で、ブラックはCLASKA ONLINE SHOP及びCLASKA Gallery & Shop"DO"各店舗、企画展「猿山修 / ギュメレイアウトスタジオの仕事」の会場となる「GALLERY CLASKA」にて販売。ブラウンは CLASKA ONLINE SHOPと「GALLERY CLASKA」(6/11〜6/26)のみで販売。
——
両手が空くものがいい、ということでしょうか。
猿山:
そうですね。あと、手に持つタイプのバッグだと、うっかりどこかに置いてきてしまう可能性がありますから(笑)。今回の「Sacoche angle 135」もそうですけど、直接身に着けるものであればその心配がないので。
——
今回猿山さんにデザインを依頼させていただくにあたり、CLASKAからいくつか具体的なリクエストをさせて頂きました。まずは革製の「サコッシュ」にしたい、ということ。デザインは性別年齢問わず使えるユニセックスなもので、中と外にポケットを付けて欲しい、そして大きさはこれくらいで……等々、結構注文が細かかったでしょうか(笑)。
猿山:
いえ、そんなことないですよ。「こうしたい」という希望があるのは商品の完成イメージがしっかりできているということですから、こちらもやりやすい。普段デザインを手掛けている仕事は、例えばうつわだったら「こういう技術を持っている工房があって、釉薬はこういうものが得意で……」というように、製作方法にある種の土台や枠組みがあって、そこからデザインを考えていくものが多いんです。もちろんそうではないケースもあるのですが、今回は比較的自由に考えさせてもらったなと思いますね。
——
「サコッシュ」は、数あるバッグの種類の中でも特に“使い方が限定されているもの“という印象があります。アパレル商品というよりは道具に近い感じがあって、数多くの生活用品をデザインしている猿山さんはどういうプランを出してくださるんだろう? というワクワク感がありました。最初に「サコッシュ」というお題を聞いた時、どう思いましたか?
猿山:
自転車好きとしては、まず「ツール・ド・フランス」(フランスおよび周辺国を舞台にして行われる自転車ロードレース)を思い出しましたよね。選手が身に着けている、競技中の補給食を入れるマチの無いシンプルな超軽量バッグ。今は様々なブランドがそれぞれの解釈でサコッシュをつくっていますけど、僕としては本来の姿であるツール・ド・フランスのイメージと繋がっていたいな、と思いながらデザインをしました。
—— なるほど。最初のデザインプランでは、こちらのリクエストを反映していただくかたちで身体に接する側にもポケットがある仕様になっていましたが、最終的にはそれを無くすという判断になりましたね。
猿山:
要素を増やすほど重量が増えてしまいますし、デザイン面でも美しくなくなってしまうので。あと、身体に触れる部分はやはりフラットなほうが掛け心地が良いですよね。
—— デザインを固めていくにあたって特に迷った部分はどこですか?
猿山:
例えばフラップ式の蓋をボタンで留められるようにした方が安全面でいいのかなとか、蓋を広げた状態で肩紐に固定できたら面白いかも、など蓋まわりの在り方については色々考えました。でも極力、+αの要素が無い方が自分の理想とするサコッシュ本来の姿に近くなりますから、とことんそぎ落とす方向に落ち着きましたね。何かと盛り込みたくなるタチなのですが、その気持ちはぐっと抑えて。
—— 色々と盛り込みたくなるんですね?
猿山:
そうですね。「これ一つあれば、あれにもこれにも使えますよ」と、ついやりたくなってしまうんですけど、逆にシンプルにすることで別の用途にも使える余白が生まれる、ということもあるわけで。
—— なるほど。
猿山:
食器の世界でいうと、例えば「カップ&ソーサー」の場合、どうしてもその用途に徹するかたちになるというか、それ以外の用途で使うのが難しいんですよ。でも日本ならではのうつわである「湯呑」とか「猪口」は、日本料理の向付に使うことも可能ですし、そもそも絶対に飲み物を入れなきゃいけないわけではないよね、と思わせてくれるところがある。そういう文化って面白いと思いますし、今回サコッシュをデザインするにあたって意識した部分かもしれません。
—— シンプルにすればするほど、使い手の自由が広がる。確かにそうですね。
猿山:
「蓋が無い方が使いやすいな」と思う人は蓋を後ろに折った状態で使ってもらえばいいし、ショルダーを好みの長さに調整するのは当然として、肩紐を金具から一旦外してベルトのように腰に巻き付けて使ってもいいと思いますよ。肩紐を細めにしたのも、そういった使い方を想定したからこそなんです。
—— なるほど、そこまで想像していませんでした! 肩紐の長さを金具で調整するのではなく、くるっとラフに結んでも良いですよね。色々な持ち方を楽しめそうです。
猿山:
花器としてつくられたものではないものに花を活ける楽しさってあるじゃないですか。そんな感じで色々楽しんでもらえたらと思いますね。
—— 猿山さんにつけて頂いた「Sacoche angle 135」という名前ですが、何か不思議な暗号のような感じがして面白いなと思いました。「135」というのは、斜めにカットしたサコッシュ本体の底と蓋の角度の数字ですが、このバッグの意匠として一番のポイントになっているのではと思います。
猿山:
はい。印象深いものになりましたね。
—— なぜこの角度だったのでしょうか?
猿山:
イメージソースは、「隅切(すみきり)」という手法です。四方の角を落とした角皿をイメージするとわかりやすいと思いますが、うつわに限らず様々なものに取り入れられている手法で、僕自身も以前シャツをデザインした時に襟を隅切にしたことがありました。角を落とすことで雰囲気を変えられるということもあるのですが、それ以前にシャツの襟や裾が着こんでいくうちに中途半端に反ってくるのがあまり好きではなくて、そうならないように隅切をしたんです。その考え方を、今回のサコッシュにも取り入れました。
—— 面白いですね。確かに、角が尖っていなければ擦れによる劣化も防ぐことが出来そうです。
猿山:
あとは、バッグの底の隅に細かいゴミが溜まらないという利点も(笑)。
—— たしかに! 課題解決のためのデザインが視覚的にも良い作用をもたらすというのは、猿山さんならではという感じがしますね。容量に関しても、マチはありませんが横幅が広いので意外とものが入りますよね。そもそも、ぎゅうぎゅうに詰めて持つタイプのバッグではありませんが。
猿山:
大きさは、「最大でこれくらいに」とリクエスト頂いた寸法の最大値になりました。もう少し小ぶりでもいいのかなと思ったのですが、男女それぞれ外出時に絶対持って出かけたいであろうものを検証していくと、やはりこれくらいの幅は必要だろうという結論に至りました。
—— バッグって「入るならいくらでも入れちゃうよ」というところが少なからずあると思うんですけど、「Sacoche angle 135」はある意味無理がきかない繊細な部分があるので、“良い気の遣い方”ができる気がします。肩紐も細めだし、マチが無いので中身を入れ過ぎたら歪んで不格好になってしまう。このバッグの美しい佇まいを生かすためには使い手が多少気を遣う必要があると思うのですが、それは決してネガティブなことではないな、と。
猿山:
あくまで、“ぺらっ”とスマートに持ちたいですよね。たまに街中でサコッシュをパンパンにして持っている人を見ると、それはもはやサコッシュではないぞ! って思ってしまう。やはり自分としてはツール・ド・フランスがイメージなので(笑)。
—— そういうことでいうと、「Sacoche angle 135」はサコッシュをサコッシュらしく持つことができる商品ですね。女性が小さなパーティバッグを持つ時、バッグのかたちが変わるほど中身を詰めて持つ人ってほぼ皆無で、美しく持つために中身に入れるものを工夫するじゃないですか。そういう感覚と近い、心地いい緊張感を持って使える大人の為のサコッシュだなと思います。
猿山:
素材が革なのもいいですよね。きちんと感も出るし、中身をちゃんと保護してくれる。今回は柔らかくて薄い牛革を選んだのですが、蓋が自重でストンと落ちるラインも綺麗だし、持つ人の身体に寄り添う柔軟さがうまく出たなと思います。
—— 「
Sacoche angle 135
」
は2色展開。ブラウンはCLASKA ONLINE SHOPと、企画展「ギュメレイアウトスタジオの仕事」の会場限定での販売になります。一人でも多くの方に手に取っていただけたら嬉しいですね。
2022年6月10日 公開