第1回
身近で素朴な山野草や雑草と呼ばれる草、樹木の美しさを伝える活動をしている榊麻美植物研究所の榊さんから、盆栽と暮らす日常の愉しみを教わります。
早いものでもう10月。「寒露」をすぎて、朝晩の冷え込みやキンモクセイの香りに秋の深まりを感じるように。暦どおり、紫や黄色、白など色とりどりの菊の花が咲き、庭に彩りを加えています。
今日は「お水やり」のことについて。
すっかり秋が深まり、春や夏に比べるとお水やりの頻度はだいぶ落ち着いてきましたが、お水やりの時間は、植物の様子や変化を確認でき、ときには小さな虹を見ることができる、好きな時間のひとつです。
様々な場所でお客様とお話をしていると、置き場所とお水やりについてよく聞かれる。さらりと見て行かれる方の話に耳を傾けていると「霧吹きでシュッシュでいいんでしょ?」という事を言っている方も、とても多い。そして、心の中で嘆く。「霧吹きでシュッシュなんて、いったい誰が言い出したんだろう。そんなことでは、1週間で枯れてしまう。」
人間に例えると分かっていただけると思いますが、喉が渇いたときに、水分を補給するため肌の表面に水をシュッシュとするだけで、乾きが満たされるでしょうか。当然、それでは足りず、脱水症状になり最悪倒れてしまいます。
植物のお水やりの基本は「乾きはじめたら、底穴から抜けるまでたっぷりと」。方法はいくつかありますが、鉢が数鉢であれば、以下の方法がやりやすいように思います。
1. 水差しやジョウロなどで、苔または土から水が浸みこむようにたっぷりと与える。
2. 苔が全面に貼ってあるものに関しては、お水を溜めたボウルやバケツなどにドブ漬けをする。(※ただし、貼ったばかりの苔は浮いてきてしまうので押さえながらあげること。)
乾いていると泡がプクプクと出てくるので、1〜2分つけて泡が出てこなくなれば取り出してあげる。
なぜ、乾いたらたっぷりとなのか?
それは、植物の根も呼吸をしているため。お水をあげると同時に根に酸素を送り込む役割が、お水やりにはあるからです。乾かない状態や、蒸れてずっと湿ったままでは根が窒息状態になり、根腐れを起こして枯れてしまうこともあるので、水につけっぱなしはNG。
また、根元にたっぷりだけでなく、葉や幹には霧吹きなどで水分を補ってあげる(葉水)と葉や幹からも水分を補給できるため、より元気になる。病害虫の予防にもなります。
風通しや日当たり、気温、植物の種類や大きさ等により乾きの具合に違いはありますが、目安は、下記の通り。
【春〜初夏】
1日1回。植物が休眠から覚め、動きだし、水分を必要とする。また春風は思っているよりも乾燥する。
【夏】
朝夕1日2回。植物の活発な活動と共に、気温も朝晩を通して高く、非常に乾く。
【秋】
1日1回。まだ残暑が残る9月でも、観察していると乾きが落ち着いてくるのがわかる。
【冬】
2〜3日に1回。気温が低く、植物も休眠に入っているため乾きは緩やか。とはいえ、空気は乾燥しており、強い風が吹いている日などは思いのほか乾いていることも。落葉中も油断せずに、植物の様子を見てあげましょう。
お水やりは、置き場所と同じくらい、いやそれ以上に大事な管理のひとつのように思います。また、紅葉がはじまったことや蕾みの膨らみの変化を知ったりと、植物と向き合うことのできる時間でもあります。
少しずつコツを掴んで、植物との暮らしが今よりも少し豊かなものになりますように。
榊 麻美
1980年 静岡県生まれ。アパレル業を経て、塩津丈洋氏に師事し植物の世界へ。2016年春、独立。榊麻美植物研究所を立ち上げる。
sakakiasami.com
*CLASKA Gallery & Shop "DO" たまプラーザ店(東急百貨店 2F)で榊麻美植物研究所展「植物のある暮らし」開催中。〜2017年10月22日(日) まで。
2017年10月17日 公開