
デザイナー 藁谷真生 & CLASKA ディレクター 大熊健郎 インタビュー
2025年春、 CLASKA が発信する新しいアパレルブランド 「āta (アタ)」 がデビューしました。
ブランドが誕生した経緯、そして 「āta」 の服を通して提案したい新しい装いのかたちについて、 デザイナー 藁谷真生と CLASKA ディレクター 大熊健郎へのインタビューをお届けします。
インタビュー・文:落合真林子 (CLASKA) 写真:Maya Matsuura(コンセプトビジュアル) 西 希 (商品着用写真)、 福島仁
CONTENTS
前編/ ナチュラルな日常着の "次" へ。
後編/ 洋服の力を借りて、 新しい自分に。
話をする人
大熊健郎 (おおくま・たけお)
2007年に CLASKA のリニューアルを手掛け、 ライフスタイルショップ 「CLASKA Gallery & Shop "DO" 」 をプロデュース。 現在はディレクターとしてバイイングから企画運営全般に携わる。 CLASKA ONLINE SHOP の Web magazineで 「『ボクはおじさん』 の買い物再入門!」 を連載中。
藁谷真生 (わらがい・まお)
デザイナー。 2019年より CLASKA 発のアパレルブランド 「HAU(ハウ)」 のデザイナーを務める。 CLASKA ONLINE SHOPのWeb magazineで 「HAUのたね」 を連載中。 CLASKA ONLINE SHOP の Web magazineで 「HAUのたね」 を連載中。
前編/
ナチュラルな日常着の "次" へ。
──2025 年春、 「 D (ディー) 」 と 「 HAU (ハウ) 」 に続く CLASKA 発のアパレルブランドとして 「āta (アタ) 」 がデビューしました。 新ブランド立ち上げに至った背景について教えてください。
大熊健郎 ( 「CLASKA」 ディレクター):
既に展開中のブランド 「D」 と 「HAU」 はシーズンごとに都度新作を発表していくスタイルですが、 それとは別に定番をつくり続けることを軸にしたブランドがあったらいいな、 という漠然とした思いから構想がスタートしました。 少し昔の話になりますが、 「D」 の前身である CLASKA のオリジナルアパレルをはじめてつくったのは 2012 年で、 当時は 「CLASKA Gallery & Shop "DO"」 で扱う商品が定番色の強い生活雑貨が主軸だったこともあり、 オリジナルアパレルに関しても同じものをコツコツつくり続けるような……ある種 "プロダクト的なもの" をイメージしていました。
──なるほど。
大熊:
ただ当時は、 自分たちの経験値やお店の規模的にもその思いを具体化することは難しかったんですね。 それから 13 年経って、 会社として洋服をつくることの経験値が上がってきた今、 当時思い描いたコンセプトに立ち返って新しいブランドの立ち上げに挑戦してみようと考えたんです。
CLASKA ディレクター 大熊健郎とデザイナーの藁谷真生。 藁谷は「āta」の他に、 2019年にスタートした CLASKA 発のアパレルブランド 「HAU」 のデザイナーも務めている。
──藁谷さんは、 新ブランド立ち上げの話を聞いた時にどんな感想を持ちましたか?
藁谷真生 ( 「HAU」 「āta」 デザイナー):
CLASKA が発信する服は 「ナチュラル」 「カジュアル」 「天然素材」 という印象が強く、 自分が得意とする分野でもあるので、 「HAU」 と同様に無理なく関わらせていただけそうだなと思いました。 ただ、 確か最初の打ち合わせの時だったと思うのですが、 大熊さんが 「天然素材はありがちだし、 もういいんじゃないかと思っています」 とおっしゃったんですね。 「新しいブランドは CLASKA の未来を体現するようなものにしたい」 と。 打ち合わせ中に出てきたキーワードも 「コンテンポラリー」 「モード」 等々、 自分がこれまでやってきた服作りには縁が無かったものばかりで、 逆にワクワクしたことを覚えています。
大熊:
「D」 も 「HAU」 もそれぞれ異なった個性があると思ってはいますが、 大きな括りとしては "ナチュラル系の服" ですよね。 新しくスタートするブランドは、 その括りから外れるような新鮮さを打ち出したいと思いました。
──世の中のムードを意識した部分もありますか?
大熊:
そうですね。 ここ 15〜20 年くらい多くの人に支持されてきた 「ナチュラルな日常着」 の "次" と言えるような気分や需要の高まりを感じる機会も増えてきました。 藁谷さんはデザイナーとして引き出しが多い方だという印象があったので、 クラスカなりのモード感やコンテンポラリーな気分をかたちにしてもらえたらと思い、 ご相談したんです。
藁谷:
そう言っていただけて嬉しいです! 私個人としてはカジュアルウエアだけではなく、 アウトドアブランドやファストファッション、 モード系等々いろいろなジャンルの服に興味があるのですが、 その思いを 「HAU」 の服づくりにそのまま反映すると世界観がバラついてしまうじゃないですか。 だから今回新ブランドに関わらせていただくことで、 自分の中にある "好き" をかたちにできるかも! というワクワク感がありました。
āta 2025 debut collection コンセプトビジュアルより。 Photo: Maya Matsuura
──では、 「HAU」 との差別化もごく自然なかたちで?
藁谷:
そうですね。 「HAU」 はスタートしてから6年が経つのですが、 自分自身も年齢を重ねていく中で 「少し "キレイめ" な要素も入れたいな」 と思うことも増えてきました。 とはいえブランドのコンセプトからずれてしまうかな? という思いもあったので……。 「HAU」 と 「āta」、 二つのブランドをやることで、 バランスがとれるようになった感覚があります。
──最初に出来上がったのはどのアイテムですか?
藁谷:
ローブですね。 あらかじめ大熊さんから 「ローブを是非」 というリクエストをいただいていたので。
大熊:
ローブは絶対にやりたかったんです。 理由はいくつかあるのですが、 ひとつは近年の気候の変化による "羽織もの" に対する需要の高まりです。 あとは、 ローブというアイテムが醸し出す独特の "非日常感" がいいな、 と。
「robe.1」/ライトグレー。 ナイロンならではの適度な張り感が、 ボリュームのあるシルエットをきれいにキープ。
「robe.2」/ネイビー。 しっかりとした生地感のある綿ブロードを使用。
藁谷:
確かに。 誰でも持っている日常着というよりは、 どこか特別感がある服ですよね。 程よいユニセックス感もあって。
大熊:
「āta」 をスタートするにあたって象徴的なアイテムになるのではと感じましたし、 今までの装いに新しい気分をプラスアルファするアイテムとして適役なんじゃないかと……。
──ファーストコレクションのラインナップは、 ローブ、 パンツ、 スカート、 ワンピース、 ブラウスなど全 9 型が揃いました。 デザインを進めていくにあたり、 藁谷さんはどんなことを大切にしましたか?
藁谷:
打ち合わせの段階で大熊さんから頂いた具体的なキーワードの中に 「ユニフォーム感」 というものがありました。 ユニフォームって色々な解釈が出来て、 たとえばメンズライクな "ワークテイスト" も選択肢のひとつになり得ると思うのですが、 「āta」 に関しては "柔らかさ" や "女性らしさ" をひとつのテーマにしようと考えました。 わかりやすい例をあげると、 直線ではなく曲線をデザインに落とし込むということ。 たとえばトップスの裾のラインにカーブをつけたり、 スカートのサイドも直線ではなくバルーンのような柔らかくて丸いシルエットにしたり。
「skirt1.」/チャコール。 ナイロンならではの適度な張り感が魅力。 履くだけで少し個性的な雰囲気を楽しめる、 デザイン性の高いスカート。
「blouse1.」/ブラック。 マットな表情と落ち感が魅力のテンセルリネンを使用。
大熊:
モード感やデザイン性、 そしてコンテンポラリー感をバランス良くまとめてくださったと思います。 「こういう感じがいいな」 と思い描いていたニュアンスを、 藁谷さんがうまくキャッチして落とし込んでくれました。 これまで CLASKA が発信する服に親しんでくださっていた方々が取り入れやすいものになったのではないでしょうか。
藁谷:
そう言っていただけて安心しました。 自分にとってはこれまで取り組んでこなかったテイストでしたが、 私自身が元々お客さんとして CLASKA の製品に親しんでいたことは大きいと思います。 ある意味お客さま目線で 「CLASKA 流のコンテンポラリーとは何か?」 ということを考えて、 デザインに落とし込めたのかもしれません。