
つくる人
日常生活を豊かにする "もの" を生み出す人たちとの
トークセッション。
「gungulparman (グングルパーマン)」 名義でのアクセサリー制作から、
デザインやイラストレーション、 グラフィックまで。
一度目にしたら忘れられない、 ユーモアにあふれる色やかたちを自由自在に操る "美術活動" をする、 外山夏緒さんのアトリエを訪ねました。
写真:川村恵理 聞き手・文・編集:落合真林子 (CLASKA)
CONTENTS
第1回/ "ニセモノ" じゃ駄目?
第2回/"偽物の財宝" で食いつなぐ
第3回/「はみ出し」や「矛盾」を愛する
第4回/手を動かし続ける理由
Profile
外山夏緒 (とやま・なつお)
2015年より絵や詩、 物語性のある要素で展開したインスタレーションなどの美術活動をスタート。 「gungulparman (グングルパーマン) 」 の名で 「偽物の財宝」 などのプロダクト制作と販売を続ける。 2022年ブックレーベル 「無駄花束 (MUDABANATABA)」 を立ち上げ活動中。 http://toyamanatsuo.com/
Instagram: @toyamanatsuo
第2回
偽物の財宝で食いつなぐ
──美大を卒業後、 4年間の会社務めを経てその後独立されました。 会社員時代は WEB コンテンツのページからオリジナル商品のデザインまでさまざまな業務に関わられたそうですが、 "色々なことをやる" というのは、 外山さんが憧れたというアートディレクターの働き方や、 今現在の外山さんの活動スタイルに通ずる部分もあるなと感じました。
外山夏緒さん (以下、 敬称略):
正直に言うと、 会社員時代は日々目の回るような忙しさで、 自分が何を学べて何を学べなかったのかわからない状態で退社しました。 4年間の間にものづくりの全体の流れは見ることは出来たけど、 何か一つ特化した技術があるわけでもない状態で自分には "強み" がないんじゃないかと、 不安な気持ちにもなりました。 でも、 いざ個人で活動をスタートして物販などをはじめる時、 「私、 ロゴつくれるし、 入稿できるし、 ウェブデザインも少しわかるな」 ということに気が付いたんです。 それまで 「自分は何も出来ない」 くらいに思っていたんですけど、 一転して 「私、 必要なこと全部出来る! やっていけるかも」 と、 前向きな気持ちになりました。
──もともと、 自分の名前でものをつくる人になりたい気持ちはあったんですか?
外山:
自分の名前で何かをやりたいというよりは、 自分が考える "美術" の役割として 「言葉に出来ないようなものをかたちにしていく」 というものがあって、 そこに興味がありました。 そういうことが出来るのであれば、 会社に属していても個人でも、 どちらでもいいなと思っていたんです。 ただ、 会社組織の一員として働いていると、 どうしても "伝わりやすいもの" 或いは "売上が見込めるもの" という方へ気持ちの舵を切っていかざるを得ない状況がありますよね。 ずっとこの環境に身を置いていたら、 自分が本来興味を持っていた制作のかたちからどんどん遠ざかってしまうなと思い、 独立する決意をしました。
──2015年に、 はじめての展示 「グングルパーマン 〜 海と鳥とライオンと森の中のあぶない奴ら ─ 二つの物語とアートピース」 を開催されました。 この展示は外山さんの作家デビューということになりますが、 どのような内容だったのでしょうか。
外山:
イラストをメインにしたインスタレーションです。 見に来てくださった方に自分の気持ちがどれだけ届いていたかはわからないのですが、 当時 "体感する" というキーワードに興味があったので、 単純な絵の展示にはしたくないという欲があって色々と考えながら会場を組み立てました。
──「体感する」 ということに興味を持たれた背景は?
外山:
もともと所属していた会社はウェブ上でコンテンツを見せたり商品を販売することがメインだったので、 常にお客さんと自分の間にはパソコンの画面があるという状況だったんですね。 その事実に対してお客さんを 「パソコンに縛りつけてる」 というような罪悪感というか後ろめたさを感じていて、 それがひとつのきっかけになりました。 作品を見に来てくれたお客さんが自分の作品を見ながら動いている景色を見たい、 と思ったんです。
──展示会場でお客さんと交わしてきた会話の中で、 何か記憶に残っているものはありますか。
外山:
一番最初の展示の時はとにかく人が来なくて……ギャラリーの小さな窓からずっと外を見ていたのが思い出です (笑)。 もちろん 「頑張ってやったのに!」 とか思いましたけど、 それと同時に自分ががっかりしたことが嬉しかったです。
──それはなぜですか?
外山:
会社員の時は会社の知名度もあり、 "何をしても人が来る" という状況だったんです。 そういう環境でやっていると自分の本当の力量がわかりませんし、 自分の仕事が世の中から見たら実際どうなのか? ということを知る機会もありませんでした。 だから、 全然人が来ないことや、 来てくれたお客さんの様子を見て 「自分が想像していたよりも全然面白がってもらえていない」 とわかることが嬉しかったし、 手ごたえを感じたんです。
──CLASKA と外山さんが繋がったのは、 2016 年に開催された 2 回目の展示あたりでしょうか。
外山:
そうですね。 ディレクターの大熊健郎さんに DM をお送りしたんです。 2 回目の展示の準備をスタートした時に、 「せめて、 人が来ないということは解消しよう」 と思い、 会場で販売する商品を紹介する冊子をつくって、 来て欲しいなと思う方々へ手紙を添えてお送りしたんです。 それに大熊さんが目にとめてくださり、 1年後くらいにアクセサリーを 「CLASKA Gallery & Shop "DO"」 で取り扱っていただける流れになったと思います。
──「gungulparman」 は外山さんの活動における "物販部門" という立ち位置になると思いますが、 やはりご自身の中でもアクセサリーは特別な存在ですか?
外山:
そうですね。 自分にとって重要なターニングポイントの一つだと思います。 最初から 「いける!」 という自信があったわけではないのですが、 自分の感覚や "やりたいこと" を体現する存在になっていくのではないかと、 直観的に思ったんですね。 もっと精度を上げていったら、 これが媒介となって沢山の人に出会える可能性があるんじゃないか……? という予感のようなものも感じさせてくれました。 まだ作家活動をはじめたばかりでお金も稼げていなかったので、 「しばらく、 この偽物の財宝で何とか食いつないでいこう」 と。
──「偽物の財宝」 という言葉、 インパクトありますよね (笑)。
外山:
そうそう。 「偽物の財宝で食いつなぐ」 というフレーズ自体を、 ものすごく気にいってしまって (笑)。 これは自分の人生の中で面白いポイントになるぞ、 と思いました。
──わりと速い段階で、 自分の活動の柱になるようなものの存在に気づけたというのは心の支えになったのでは?
外山:
そうですね。 ただ、 アクセサリーもすぐに軌道に乗ったわけでもないですし、 支えというよりは 「もしかして、 やばいもの抱えちゃったかな……?」 という気持ちもあった、 というのが正直なところです。
──アクセサリーのデザインは平面作品の中で描かれたモチーフがもとになっているそうですが、 流れとしてはまずドローイングやコラージュ作品を仕上げて、 そこからアクセサリーにするかたちを選んでいく、 という感じなんですか?
外山:
はじめた当初はそういう流れでしたが、 最近はドローイングがアクセサリー制作にあたっての準備運動のような立ち位置になっています。 描く時も 「こういうデザインのアクセサリーにしよう」 というような直接的な考え方ではなく、 アクセサリーっぽいムードを出しながら自由にかたちを描いてみることを経て、 制作に入っていくという流れですね。 最初から計画ありきでやってしまうと、 出来上がるものも固い印象、 或いは思いを込め過ぎたものになる気がして違和感があったので、 今は先にパーツなどをバラバラにつくっておいて、 気持ちのままに組み立てていく方法をとるようになりました。
──つまり、 即興に近いかたちなんですね。
外山:
そうですね。 私の場合は洋服のように季節に合わせてつくるリズムではなく、 「その時に出来上がったもの」 を納品させていただいているので、 ありがたいことに自分の中では仕事をしているという意識が薄いんですよ。 物販を仕事として捉えたことがないかもしれない。
──この話に関連するところでいうと、 CLASKA で仕入れさせていただいている外山さんのアクセサリーはアソート納品なんですよね。 一般的にアクセサリーを作家さんに発注する時は 「このデザインを何個」 という形式が多いのですが、 外山さんの場合は作品が届くまでどういうデザインのものが来るのかわからない。 店舗スタッフも 「今回はどんなものが届くんだろう?」 と楽しみにしているようです。
外山:
同じものをルーティンでつくり続けることが性格的に厳しい部分があるので、 そう言っていただけるととても嬉しいです。 もちろん、 同じデザインを複数個つくることもあるんですけど、 使うビーズを少し変えてみるとか、 そういう余白や自由さがあると楽しく続けていける気がするんですよね。
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