TOKYO AND ME

東京で暮らす人、 東京を旅する人。
それぞれにとって極めて個人的な東京の風景を、 写真家・ホンマタカシが切り取る。

写真:ホンマタカシ 文・編集:落合真林子 (CLASKA)


Vol.57 坂巻弓華 (画家) 

 

PLACE : 新宿三丁目 (新宿区)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Sounds of Tokyo 57. (Lunch time at Curry restaurant "Gandhi")


生まれ育ちは東京の郊外で、 一応都内ではあるのですが、 ほぼ埼玉ですね。 あまり東京で育ったという感覚はありません。

ニュータウン的な感じでもなく、 自然に恵まれているわけでもなく。 一言で説明がしにくい街です。
大きな病院と畑があって、 ちょっと歩けば小屋みたいなところで飼われている牛がいて……。
私の家は駅前のほうだったので、 さすがに牛はいませんでしたけど (笑)。

両親や親戚の仕事の関係で、 アートやデザインに関連したものが身近にある環境で育ちました。
小さな頃、 仕事場に遊びに行った時にパソコンで絵を描かせてもらったりして楽しかった思い出はありますけど……身内にそういう仕事をしている人がいると常に見られている感じがするというか、 決してのびのびとした気持ちでは描けないですよね。
今は画家をしていますけど、 そういう分野についてはある種抑制された環境で育ってきた感覚があります。

埼玉あるあるだと思いますが、 最寄りの都会は池袋でした。
祖父母の家が門前仲町にあったので "古き良き東京" にも縁がありましたが、 都心へ頻繁に出るようになったのは 「女子美術大学」 の短大に通うようになってからです。 校舎がある杉並まで、 1時間くらいかけて通いました。

それなりに色々な街と関わってきましたが、 改めて考えてみたらあまり思い入れが深い街ってないんですよね。 学校があるから行くだけ、 バイトで行くだけ、 という感じで。

あまり目的なく散歩したりするタイプでもないので、 たとえば 「あれを買わなきゃいけない」 とか何かしら理由がないと外出しないんです。 何か一つでも目的があったほうが落ち着く。 そういう気質なんでしょうね。
ただでさえそういう感じなので、 仕事が忙しい時期はほとんど家から出ることはありません。

ただ、 新宿三丁目にはよく足を運びます。 2週間に1度は行っているんじゃないかな。

画材を買うために 「世界堂」 に行くのが目的です。 やっぱりあそこは、 なんでも揃っていますからね。 特に個展前は 「あれもこれも無かった!」 という状態になるので、 行く頻度が増えます。
今はネットで何でも買えますけど、 やっぱり外出すると息抜きになるので。
世界堂で用事を済ませたあとは、 伊勢丹に寄ったりお茶をしたり。 お昼ごはんを食べる日は、 大体 「ガンジー」 というカレー屋に行きます。 すごく好きなんですよ。

「新宿でお茶する」 というと、 レトロな純喫茶をイメージする人も多いと思いますし、 私もよく 「純喫茶好きそう」 とか言われるんですけど……むしろ苦手な方で。 ドトール、 エクセルシオール、 スターバックスなどなど、 チェーン店をこよなく愛しております。
純喫茶って、 来る人を選ぶ感じがしてしまうんですよ。 なんだかメロンソーダを飲まなきゃいけなそうだし (笑)。
気兼ねなくぼーっとできるのは、 やはりチェーン店ですね。

新宿もエリアによって街のキャラクターが違いますけど、 世界堂がある新宿三丁目あたりは 「どんな人も歓迎しますよ」 という感じの "懐の深さ" を感じます。 それこそ、 純喫茶っぽくないというか。

伊勢丹の存在も大きいと思うんですけど、 表参道みたいに "おしゃれして行かなきゃ" と思わせないし、 精神的に手ぶらで行ける街という感じがしませんか?
言葉にするならば、 誰でも自由に利用できる 「公共スペース」 みたいな感じ。 そういうところが好きです。

あと、 同じ新宿でも歌舞伎町方面とは違ってクリーンで安全な感じがありますしね。
歌舞伎町で綺麗なトイレを探すのは大変じゃないですか。 でも三丁目だったら、 伊勢丹に行けば色々なことが大体なんとかなりますから。

なんだかぼんやりと生きてきたので……東京についてあまり深く考えたことは無いのですが、 他の場所で暮らしてみたいと思ったことは一度もないですね。
そもそも、 自分で住む場所を選びたいという欲があまりなくて。

そうだ。 なぜ東京なのか? ということに対する決定的な理由があるんですけど、 私、 運転免許を持ってないんですよ。 だから交通網が発達している場所じゃないと生きていけないんです。
「東京が好き!」 というよりは、 「東京っていろいろ便利だし、 なんかいいよね」 という温度感で、 日々暮らしております。


Profile
坂巻弓華 Yuka Sakamaki


画家。 童話作家。 個展を中心に作品を発表。 著書に 『たんていくまたろう』 シリーズ (あかね書房)、 『坂巻弓華寓話集』 (BOOKNERD)、 『サカマキマンガ』 (プレコグ・スタヂオ) がある。

Instagram@sakamakiyuka

東京と私