TOKYO AND ME
東京で暮らす人、 東京を旅する人。
それぞれにとって極めて個人的な東京の風景を、 写真家・ホンマタカシが切り取る。
写真:ホンマタカシ ヘアメイク:伏屋陽子 (ESPER) スタイリング:渡邉恵子 文・編集:落合真林子 (CLASKA)
Sounds of Tokyo 53. ( Walking along the Senkawa River )
一番古い記憶はニューヨークにいた頃のこと。
父の仕事の関係で5歳までニューヨークで暮らして、 その後日本に戻ってきました。
それ以来一人暮らしをはじめるまではずっと実家のある成城にいたので、 幼少期から10代後半にかけての思い出はすべて成城に詰まっていると言っても過言ではなく。
そういう意味で、 私にとって特別な街です。
世間的には静かな住宅地のイメージが強いかもしれませんが豊かな自然に恵まれた緑の多い街でもあり、 成城ならではの "子どもらしい" 時間を過ごすことができたなと、 今になって感じています。
私、 ものすごいお転婆だったんですよ。
両親共にアクティブでアウトドア好きなので、 その影響が大きいんじゃないかと思います。
通っていた小学校の裏に里山があったのですが、 そこを下ったところに 「成城みつ池緑地」 という綺麗な池がある公園があって。
学校の 「里山クラブ」 に入っていたので、 みつ池緑地と学校裏の里山では本当によく遊びましたし、 週末になると父や弟と一緒に 「砧公園」 まで出かけてキャッチボールやサッカーをしたりして、 とにかく体をよく動かして遊ぶのが好きな子どもでした。
自分の中で 「成城といえば、 ここ」 という場所が他にもいくつかあるのですが、 「仙川」 もそのひとつです。
中学生の時に川沿いを父と一緒にランニングしたこと。 川のそばに建つ 「東宝スタジオ」 裏へ絵を描きに行ったり、 鳥の観察をしたこと。
小学生の時は川沿いの道を自転車で走って二子玉川にある父の実家へ週2くらいの頻度で遊びに行っていたこともあり、 仙川には四季を通じて色々な思い出があります。
そういえば、 東宝スタジオの裏は桜の名所でもありました。
成城は桜が多い街なのですが、 花が咲き終わって新緑の季節になると道の端に毛虫が山積みになるんです (笑)。 成城の春の "風物詩" ですね。
秋は銀杏。
いつだったか、 私のクラスメイトの男の子が道路にいたずらで仕掛けた銀杏の実をうちの車が踏んでしまって、 父が激怒したという思い出があります (笑)。
そんな父は家の庭の畑で野菜を育てていたのですが、 畑にやってくる鳥たちの姿を通じて四季の移り変わりを実感する機会も多かったです。
春はウグイスにメジロ。 父が大切に育てたイチゴをヒバリが食べてしまって大騒ぎになったこともありました。 ヒヨドリとの闘いがはじまると 「ああ、 そろそろ夏が来るんだな」 と思ったり……。
季節と結びついた記憶がちゃんと残っているのは、 幸せなことですね。
ガラッと話が変わるようですが、 成城で過ごした時間の大半はクラシックバレエに夢中になった時間でもありました。
バレエって静かで上品なイメージがあるかもしれませんが、 自分としてはそういうものとして捉えていなかったというか、 体を動かすという意味では自然の中で遊ぶこともバレエスタジオでお稽古をすることも同じだったんですね。
6歳で習いはじめた当初から将来はプロのバレリーナになることを目標にストイックに練習をしてきましたが、 中学生2年の時に限界を感じてバレエの道を諦め、 それ以降、 自分にとっての目標が 「俳優になること」 に変わりました。
それまで放課後はバレエ一色だったので時間を持て余してしまい、 かといってまっすぐ家に帰る気分にならない時もあって……成城学園駅前のコルティに入っている書店で時間をつぶすことが度々ありました。 4時間くらい居たこともあったかな。
俳優になるという目標に近づくために、 色々な映画を見て勉強するようになったのもこの頃です。
相変わらず生活のほぼすべてが成城で完結していましたが、 高校卒業後に俳優の仕事をはじめた頃から他の街との関わりが少しずつ増えていきました。
大人になって東京の様々な街に縁ができましたが、 やっぱり成城は特別な存在です。
故郷であり、 帰るとほっとする場所であり、 私のベースをつくってくれた場所であり。
とはいえ実家が近いとなかなか頻繁には帰らないもので、 同じ成城でも実家より仕事で東宝スタジオに行く機会のほうが多いかもしれません。
別の街で暮らすようになって感じるのは、 成城の夜は静かだったな、 ということ。
東京の夜って、 深夜でも沢山の車が走っていたり遅い時間までやっている飲食店も多いし、 明るくて賑やかじゃないですか。
高校生の頃、 夜に家の周りをぐるぐる歩きながらよく考えごとをしていたのですが、 暗闇が適度に怖かったなと。 音楽を聴きながら歩いちゃだめだと思わせるような……。
あの夜の静けさも、 今思えば成城ならではの "特別" だったのかもしれません。
Profile
門脇 麦 Mugi Kadowaki
俳優。 1992年、 東京都出身。 2011年、 ドラマ 『美咲ナンバーワン!!』 でデビュー。 2015年には映画 『愛の渦』 などで第88回キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞など複数の新人賞を受賞。 近年の主な出演作に、 映画 『あのこは貴族』 『ほつれる』、 NHK大河ドラマ 『麒麟がくる』、 フジテレビ系 『ミステリと言う勿れ』、 日本テレビ系 『リバーサルオーケストラ』 『厨房のありす』、 WOWOW連続ドラマW-30 『ながたんと青と-いちかの料理帖-』 など。
東京と私
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