「ボクはおじさん」の買い物再入門!
文・イラスト:大熊健郎 写真:馬場わかな 編集:落合真林子(CLASKA)
そう、 近頃の私は何を着たらいいかわからない病になって本気で悩んでいる。 10年、 20年前と比べてそれほど体形も変わってはいないはずなのに、 かつて似合っていた (と思っている) 服がどうもなじまない。 たしかに髪は白くなるばかりか肝心の量も激減 (という表現にとどめたい……)、 さらに顔の締まりもツヤも確実になくなっている。 自分ではたいして変わっていないと思っていたのだが、 実は日々の変化の積み重ねが想像以上に大きな影響を及ぼしていたことに気づかされ、 今さらながら愕然としているというのが正直なところ。
もういいオジサンになったことをいいかげん受け入れて年相応の落ち着いたカッコをすればよいと思いつつ、 どこか変化を受け入れたくない自分がいるのがまたやっかいだ。 通りで目にする同世代のオジサンには 「その顔とスタイルでその服装はないでしょ。 己を知れ!」 なんて心の中で毒舌を吐いているくせに、 自分のこととなると、 ちょっとでもよく見られたいという欲が払拭できずに悶々としているのがまた情けない……。 もう毎日の服に思い悩むなんて日々とはサヨナラして自分のスタイルを確立するぞ! という強い思いを私は今、 体中に漲らせているのである。
前置きはこれくらいにして本題に入りたいと思います……。 というわけでスタイルの確立を目指す私がまず白羽の矢を立てたのがシャツである。 これまでの人生、 仕事柄もありオンオフほとんど変わらない恰好で過ごしてきたが、 仕事中はスーツを着た人に合う機会も多いのでシャツくらいは着て最低限の身だしなみは確保したいと考えてきた。
シャツといえば私が好きなのがラウンドカラー、 丸襟のシャツである。 この角の取れた襟にクラシックで貴族的なイメージを重ねて私は思わず 「萌え」 やすい。 ただ丸襟のシャツというと日本だと制服などの影響で女性的なイメージが強いせいか、 メンズ市場ではあまり市販されていない。 それがある時幸運な邂逅に恵まれたのである。
土日ともなると 「ここは竹下通りか!」 と言いたくなるほどの喧騒と人込みに包まれる吉祥寺の街。 そんな吉祥寺のとある通りを、 人をかき分けるように歩いていた時だった。 ふと目を逸らすと、 「オーダーシャツの店 若林」 という文字が目に入った。 誘われるように脇道に入ると突然昭和の香りがする静かな佇まいの店が現れた。 ガラス越しに中を覗くと、 両側の棚にはシャツ用生地の反がずらりと並んでいる。 これが私と 「若林ワイシャツ店」 との出会いだった。
オーダーシャツなんて高いのでは? とお思いになる方も少なくないだろう。 それが実に良心的な価格から製作が可能なのである (税込み1万1000円〜)。 価格の差はシンプルに使用する生地の値段による。 イタリアやイギリスのインポート生地を使えば2、3万になるものもあるが、 スタート価格でも十分高品質の国産生地から選べるし、 ほかにもクオリティは申し分ないけど、 廃盤や取り扱い終了を理由にとってもお得なセール生地というのも常備されている。
オーダーの流れはざっと次の通り。 まず生地を選び、 じっくり体の採寸を行う。 採寸が終わると今度は襟のかたちだとか、 カフスの長さやかたち、 ボタンの位置やポケットの有無といった細かなディテールを決めていく。 その後、 型紙製作、 裁断、 縫製、 ボタン付け、 検品、 プレスといった作業を経て、 約3週間で出来上がりとなる。
体にフィットしたシャツの着心地のよいこと。 これまで腕の長さが寸足らずだったり、 首が太くて第一ボタンが閉まらないといった既製品ではストレスに感じていた部分も全て解消し、 これぞ私のシャツと胸を張れるようになった。 女性モノのオーダーももちろん可能で、 体にフィットしたシャツばかりでなくゆったりした自分好みのラインでつくることができる。 「誂える」 という喜び、 ぜひみなさまにも体感していただきたい。
Profile
大熊健郎 Takeo Okuma
1969年東京生まれ。 大学卒業後、 イデー、 全日空機内誌 『翼の王国』 の編集者勤務を経て、 2007年 CLASKA のリニューアルを手掛ける。 同時に 「CLASKA Gallery & Shop "DO" 」をプロデュース。 ディレクターとしてバイイングから企画運営全般に関わっている。
>>CLASKA ONLINE SHOP でのこれまでの連載
> 「21のバガテル」 (*CLASKA発のWEBマガジン「OIL MAGAZINE」リンクします)