堀井和子さんの「いいもの、好きなもの」

第19回:「詩集 妖精の詩」/吊り下げタイプではないモビール/ガーデンテーブルと椅子

写真・文:堀井和子


1998年に光琳社から出版された「詩集 妖精の詩」(英語版)。

大竹伸朗さんの挿画の、のびやかなこと、葛西薫さんの装幀の、外へ弾けるような勢いに魅かれて、手に取ったことを覚えています。

詩集ではないのですが、「賢治のイーハトーブ植物園」に引用されている植物についての表現が好きでした。
実は詩集を読んだことは、ほとんどないかもしれません。

昨年の夏頃から、80年代のイギリスポップス、ロックを聴き続けていて、英語の歌詩の韻やリズム、使う言葉のニュアンス、発音などに興味が出てきたところです。

この詩集は、今井とおる、金子みすゞ、大関松三郎、中原中也、小熊秀雄という5人の詩人の作品を英訳したもので、英語のタイトルは “Whom the Gods Loved” 。

表紙カバーのミント色がかった水色も、軽やかな紙の仕立ても、初夏に風が吹き抜けるような爽やかさで心地よく、この一冊は時折、本棚から取り出しては見ています。

開いたのは、大関さんの “Wretched Insects” のページで、明るい緑で描かれた昆虫や葉っぱの線画が、すごく楽しい。

いろいろな虫をじーっと見つめていた時間の、自分のまわりの樹や草のにおいまで、漂ってきそうです。

詩を読んで理解するところへ到達してはいないけれど、この詩の世界が挿画と装幀によって身近に感じられ、中の言葉へ誘われる気がしました。

モビール展で制作した、ガラスの土台に銀色の円形のオーナメントのモビール、吊り下げる部分をはずして、我家の図書室の天井から、細い針金で吊ってみました。

針金が立体的に交錯する構造でしたので、他のモビールのように動きは多くないのですが、空間に広がる円形が、たいそうカッコよく見えます。

すごくシンプルで潔よいデザインなのに、丁寧にサンドした幾分いびつな円形が美しいなぁと。

今回、いろいろな構成のモビールができて、選んでくださった方の家の空間で、それぞれ、また別の表情を見せているのではないかと、またちょっと嬉しくなりました。

ミディ・ピレネーの北の端、Cuzance の Table d'hôte のガーデンテーブル。

5部屋しかない宿ですが、敷地は5ヘクタール、広い田園に囲まれていて、部屋の内装、調度品、庭などが、昔見た La Maison(フランスのインテリア雑誌)のページのような、洗練されたコーディネイトでした。

2階の部屋の窓から見下ろすと、樹の枝や葉が、木陰を作って涼し気です。

テーブルに塗ったペンキが自然に褪色して、椅子の鋳物も程よくかすれたような色合いになっていて、ずっとここに座って時を過ごせそう。

初夏の今、瞬間移動したくなりました。


Profile
堀井和子 Kazuko Horii
東京生まれ。料理スタイリスト・粉料理研究家として、レシピ本や自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍や旅のエッセイなどを多数出版。2010年から「1丁目ほりい事務所」名義でものづくりに取り組み、CLASKA Gallery & Shop "DO" と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行う。

CLASKA ONLINE SHOP でのこれまでの連載
> 堀井和子さんの「いいもの」のファイル (*CLASKA発のWEBマガジン「OIL MAGAZINE」リンクします)
> 堀井和子さんの「いいもの、みつけました!」


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